高大連携事例③前橋高校&共愛学園前橋国際大学

地学一体でつなぐ

一人ひとりの生徒を、
地域の高大社が一体となって育てる文化を醸成

・前橋市立前橋高校(群馬・市立)
・共愛学園前橋国際大学(群馬・私立)

  

地域で学び、活躍する人を
高大社・地学一体で育てる
共愛学園前橋国際大学は、学部は1学部のみ、学生数は約1200人の小規模の大学ながら、昨今の厳しい募集環境の中で順調に志願者を伸ばしている。  

特に県内の高校からの志願者が増えているのは、地方が世界とダイレクトにつながる時代において、大森昭生学長が「飛び立たないグローバル人材」と呼ぶ、グローバルな素養を備えながらローカルで活躍する人材を育てるという明確な目標のもと、さまざまな取組を行っているからだ。同学の人材育成には地元からの期待も高く、文科省指定事業のほか「、地域人材育成協議会」や、材の育成・定着にかかる産学官連携基盤推進協議会)」などで、産官学を連携させた地学一体の協働学修を多数実施してきた。  

地域のニーズは、「地方創生」「地域の若者育成」であるが、一人ひとりの生徒・学生の視点では、高校、大学、社会の間で学びが途切れていることが課題として浮かび上がっていた。
「高大社を通した若者のシームレスな成長を叶えるために、真ん中にある大学の役割のひとつは、高校の学びを支援することだと考えています。そこに地域の企業や行政も巻き込み、地域の大人がよってたかって一人ひとりの子どもを育てていく文化の醸成を目指しています」(大森学長)

大学が高校を支援することで
地域全体の教育力の向上へ  
大学は、高校の教育改革に先んじて改革を迫られてきた。大学改革の柱である「アクティブ・ラーニング(教育の質転換)」「社会連携教育」「学修成果の可視化(教学マネジメント)」は、高校改革の柱の「探究、主体的・対話的で深い学び」「社会に開かれた教育課程」「何ができるようになったのか(カリキュラム・マネジメント)」、とそれぞれ接続している(図1)。
「先行して改革を進めてきた大学のノウハウを高校と共有することで、地域全体の教育力を高めていきたいと考えています」(大森学長)  

こうした理念のもと、高大接続コーディネーターという専門職を置き、高校のニーズに合わせて、多様な連携活動を実施している(図2)。
「課題研究の授業を本学が担当し、単位認定も行っている太田市立太田高校・商業科のような例もあります。履修した高校生は、大学進学後にその単位を生かすこともできます」(高大接続コーディネーター・見目けんもく友香氏)  

また、大学の本分は研究であることから、高校の探究に大学が支援できることが多々あると同学は考えている。自分のテーマで主体的に学ぶ探究は、高校と大学の学びをつなげるのりしろとして重要な役割を果たせる可能性があるという期待から、積極的に高校の探究支援も行っている。  

探究支援の方法もさまざまだ。前橋市立前橋高校では、同校が設計した探究プログラムの中で、フィールドワークなど外部の力が必要な活動に対して、教員や学生がサポートしている(コラム参照)。課題研究の進め方について教員が講義を行ったり、学生が自分の研究を例にアドバイスするケースもある。また、課題研究のテーマ設定の参考になるような講義をする、教員のデリバリークラスも頻繁に実施している。

個別の高校とつながるきっかけは、高校教員向けにアクティブ・ラーニングなどのセミナーを開催し、参加校の先生たちとの交流から連携が生まれたり、同学のオープンキャンパスに参加して興味をもった高校の先生たちから声がかかったりすることだ。
「大学と積極的に連携を進めている高校の先生たちは、自らアンテナを張って動いていらっしゃいます。高校側から大学に声がけすることは敷居が高いと感じるかもしれませんが、大学も高校に自学の取組を知ってもらいたいと願っています。遠慮せずに声をかけてほしいですね」(大森学長)

教室と地域での実践の往還で
未来を描く力をつける
同学が地学一体でグローカルな人材育成を推進してきた根本にあるのは、学校の中だけでは学生に育むべき社会人基礎力やジェネリックスキルがつけられないと考えているからだ。
「我々教員は、知識を伝授することには自信がありますが、これからの時代はその知識と実践を結びつけられる力が強く求められています。教室と実践現場の往還が必要で、だからこそ大学の学びは地域に開かれていくのです。本学が地元企業や自治体と連携したPBLやインターンシップ等をカリキュラムに多く組み込んでいる理由はそこにあります」(大森学長)  

以前、県内の進学校の高校生と同学の学生が共にキャリアデザインを考える学びを実施したところ、高校生が描く未来は「ブラック企業に就職」など暗いものが多かった。一方、同学の学生は「将来起業したい」など明るい未来を描いていた。その違いを生むのが実体験と捉えている。地域の協力のもと地学一体の学びを経験してきた同学の学生たちは成功も失敗も体験し、「それでも何とか生きていけそう」という感覚をもっているという。
「その感覚が、未来を描く原動力なのだと思います。大学は高校にとって最も近い社会。大学での学びや大学生の姿を知ることで、高校生は『こんなことが大学でできる、したい』と思えるようになります。また、学生を高校に派遣することは手間もコストもかかりますが、高校生にアドバイスすることで、学生自身も自らの学びを振り返り、学びの定着や自己有用感の醸成につながっています。  

本学が地域の多くの企業や行政から支援してもらったことを、我々は高校にしていくべきだと考えています。高校と大学が連携することで地域全体の教育力、人材育成力を上げていくことに共に貢献していきましょう」(大森学長)

共愛学園前橋国際大学学長
大森昭生先生

同 高大接続コーディネーター
見目友香


高校の視点

大学生と協働することで、
生徒がリアルな大学の
学びを知り、視野が広がった

前・前橋市立前橋高校 進路指導主事
(現・群馬県立沼田高校・ 定時制教頭)
田崎 潤先生

前橋市立前橋高校は地域活性化プロジェクト「めぶく」という探究活動を行っている。生徒たちが探究を通して「ありたい自分」を見出せるキャリア支援となることを目指した取組だ。このプログラムの開発に携わった、田崎 潤先生はこう語る。
「高校の学びと実社会のつながりを生徒が実感するために、自分を育んできた地元・前橋を知り、前橋の未来を考えるプログラムを考えました」  

プログラムはいずれも学校の中だけではできないため、前橋市の大学、企業、行政など多様な連携先にとにかく声をかけ、さまざまな大人たちとのつながりの中で生徒たちが前橋市の魅力と課題を発見、課題解決のために市長選の模擬選挙を行うという仕立てとした。共愛学園前橋国際大学には、地域を知るためのフィールドワーク(まちなかインタビュー)の支援や、市長候補者役を依頼。生徒から候補者を出すと日頃の人間関係が影響するためだ。生徒たちは大学生候補者のブレーンとなり、共にマニフェストづくりなどを行った。

大学生と共に学ぶことで、生徒たちは「大学生はこういう学び方をするんだ」とPBL の本質を体感し、視野を広げていった。その結果、自分たちだけで考えていたときよりもマニフェストが深みを帯びた内容になっていったという。
「『めぶく』を通して地域の課題も魅力も知ったことで、取り組みたいテーマがたくさん見つかり、もっと地域のことを学びたいという生徒が増え、地元の大学への進学率 が約5割から7割へと上がりました。 “つながる”をコンセプトにした『めぶく』で自分と 地域や大学とのつながりを体感したことで、より主体的な進路選択をするようにな ったと感じています」(田崎先生)

模擬選挙でマニフェストを発表する生徒たち。
左が市長候補役の共愛学園前橋国際大学の学生。
同校の卒業生として探究支援に参加した一人。

取材・文/長島佳子