高大連携事例⑤大正大学

育てたい学生像でつなぐ

高校で育んだ探究力を大学でさらに深めて
社会に送り出す、7年間を通した人材育成

・大正大学(東京・私立)

  

高校での探究を評価し、
大学でさらに伸ばすための新入試
大正大学は、2022年度入試より「地域戦略人材育成入試」という特徴ある入試を総合型選抜の一環としてスタートさせた。高校時代に、実社会や実生活と自己の関わりから生まれた問いに基づいた課題を設定し、プロジェクトを立ち上げて実践した経験を評価する入試だ。つまり、自らの興味・関心(マイテーマ)で課題研究などの探究(マイプロジェクト)に取り組んできた生徒を対象としているのだ。評価するだけでなく、彼らの課題観や意欲を受け取り、大学でさらに深め、価値創造力をつけてその力を発揮できる社会へ送り出すという高大一貫教育をデザインしている。(図1)。  

応募者は第一次審査の志望理由書で自分が探究してきた学びについて記述し、第二次審査では大学でどのような問いをもって学びを続け、社会にどのように貢献していきたいかをプレゼンテーションする。ハードルが高い入試である一方、4年間奨学金受給のチャンスがある。導入のきっかけについて、担当の地域創生学部・浦崎太郎教授はこう語る。
「高校の新学習指導要領の〝主体的・対話的で深い学び〞で育成しようとしている力が、私自身、具体的にイメージできていませんでした。それを教えてくれたのが、この入試で対象としているような学びを実践している学生たちの姿だったのです」  

学生たちは「やらされ探究」ではなく、マイテーマを見つけられれば、偏差値的な優劣に関係なく、スイッチが入って自ら学びを深めていく。  

高校時代に既にそうした経験を積んだ学生が大正大学にも在籍している。彼らをロールモデルとし、「こういう生徒が欲しくて、こういう学生に育てたい」と具体的に示した施策が「地域戦略人材育成入試」なのだ。
「高校で高度な探究を経験した学生が、大学の学びを物足りないと感じることがないよう、大学は一人ひとりのマイテーマに合った学びを提供し、さらに深めて社会に出さなければなりません。それが大学の責務だと思います。大事なのは、教員の人間観・教育観のマインドセット。先入観を捨て、『夢中になれるテーマに出合えれば誰でも主体的に学びだす』という視線で学生を見ることです」(浦崎教授)

大学が求める人材を明確化し
高校が育てたい人物像と接続
浦崎教授が責務と語る教育の実現のため、同学では昨年度から、先進的な人材育成プログラムである「新時代の地域のあり方を構想する地域戦略人材育成事業」を始めた。これは文部科学省の令和2年度「知識集約型社会を支える人材育成事業」に採択された事業だ。
「文部科学省からの評価ポイントは、大学の入口となる高校と、出口となる社会の双方との接続を見据えていたことでした」(神達知純副学長)  

入口としての特徴が「チュートリアル教育」だ。専門のトレーニングを積んだチューターやSA(スチューデント・アシスタント)が一人ひとりの学生に付き、学びへの動機づけや学修支援者として伴走する。大学での学び方やデータサイエンス教育などの土台づくりも1・2年次で丁寧に行う。  出口教育では、社会の課題解決策を実践的に学修できるよう企業や地域との連携で行うインターンシップやフィールドワークが多数用意されている。「重要視しているのは大学での学びの社会実装です。本学の建学の理念は〝智慧と慈悲の実践〞。従来から地域や被災地での支援活動など実社会と連携した教育活動を行う文化がありました」(神達副学長)  

同学がこの事業に着手した背景には、大学が3つのポリシーの策定を義務づけられた際、「高度に学びを達成している学生とは?」について固有の学生の姿から遡り、定性的、定量的にデータ化していった経験がある。そうした学生を生み出す基盤としての大学のあり方を考え、事業プログラムを設計した。
「高校も今後スクールポリシーを明確化していくと思います。我々は、大学としてどんな学生を育てようとして、どんな教育をするかをこの事業によって明らかにしました。そのためにどんな生徒を求めているかという本学のAP(アドミッション・ポリシー)が、高校が育み送り出したい生徒像とつながっていくことが、本来の高大接続だと考えています」(高大接続担当・山内洋教授)

複数の高校・大学を巻き込む、
高次の連携パートナーシップ
さらに大正大学では、高大連携の新たな形をつくろうとしている。それが「高大接続パートナーシッププロジェクト(S-U.P.P)」(図2)だ。複数の高校と大学が集まることで、互いの教育上の課題や知見を共有し合える場を提供しようとするものだ。  

多様な生徒・学生の興味・関心にあった教育を実現させるためには、一つの大学、高校のリソースだけでは不足することもある。S-U.P.Pによって、教育理念を同じにする多数の高校、大学とネットワークを形成し、連携して生徒・学生を育成することを目標としている。  

例えば高校には、複数のパートナー大学を大学群として捉えてもらい、単なる出前授業に留まらず、高大が共に授業や学びを設計するなど、学びを共創していくことを計画している。今年の7月に募集をスタートし、既に25校余りの高校とパートナーシップを内定しているという。
「『高大接続』を意味のあるつながりとするためには、お互いの教育的な〝顔〞を見せ合う必要があります。それが大学の3つのポリシーであり、高校のスクールポリシーなのです。ポリシーが共通していれば、経営母体を異にしても附属校のようにつながって、育てたい学生像を語り合える仲間になれると信じています」(山内教授)  

目指すのは高大7年間を一貫した人材育成。経営的利害がない学校同士こそ、こうした協働の可能性があると同学は考えている。連携校とは、卒業生の大学での具体的な成長を確認してもらえる「学修成果報告会」なども予定しており、高校での学びや進路選択のその後の検証も可能となる。
「高大接続は公益です。自学のことだけ考えている時代ではなく、責務を果たしつつ、社会に必要とされる持続可能な大学であり続けたいと考えています」(山内教授)

  

副学長 博士 (仏教学)仏教学部仏教学科
神達知純教授

理事長付特別補佐(高大接続担当) ・文学部日本文学科学科長
山内 洋教授

地域創生学部 地域構想研究所
教育による地域創生チーム
浦崎太郎教授


高校の視点

オンライン説明会参加者からの感想

2021年7月2日に実施された「S-U.P.P」「地域戦略人材育成入試」の説明会参加者のアンケートコメント

真の意味での高大連携は必要だと思います。連携により高校生が成長し、引き続き大学でも成長していける、そのような正のスパイラルが回るようになればと思います。
デフレとコロナで地域の崩壊が進んだ現代において、地域における新たな価値を模索することが今後の日本の重要な課題だと思います。そのためにはS-U.P.Pのような一貫した地域人の育成が重要だと感じました。地域や共同体に積極的に関わろうとするパブリックマインドの育成を、学校教育にしっかりと位置づけなければならないと感じました。
本日一緒に説明を聞かせていただいていた他の高校さんとのつながりも、大正大学様を軸に具体化されていったら面白くなるなと期待が膨らみました。
S-U.P.Pの考えは非常に重要でかつ今後の社会に求められることであるとも思った。この考えはぜひともより広く浸透してほしい。

  

取材・文/長島佳子