高大連携事例②富谷高校&宮城大学

探究の指導支援でつなぐ

大学教員が研究者の視点で生徒の探究に伴走。
高校教員の探究指導力の向上にもつながる

・富谷高校(宮城・県立)
・宮城大学(宮城・公立)

  

入試という壁を超えて、
高校と大学との間にスロープをかける  
宮城大学では、2019年に高大連携推進室を立ち上げ、効果的で持続的な高大連携事業を模索してきた。高大連携に力を入れるようになった背景について、笠原紳教授はこう語る。

「かつて大学と高校は、大学入試において評価する・される立場であり、特定の学校同士がつながることはアンフェアだとされてきました。しかし、大学での学びの中身をよく知らなかったが故に入学後にミスマッチを起こしてしまったり、大学1年生の理解レベルにそぐわない講義や指導をする大学教員がいたり、入試の筆記試験の成績で資質・能力を判断することの限界が見えてきたりと、多くの課題がありました。高大連携や高大接続が議論されるなか、入試という断崖絶壁を挟んでいた高校と大学との間にスロープをかけよう、宮城県の公立大学として地域の高校との連携をより進めていこうと、学部や部署ごとに対応してきた高大連携事業の窓口を一本化し、大学を挙げて取り組むことになりました」

現在はオンラインも活用しながら、「大学見学・出前講義」「アカデミック・インターンシップ」「探究型学習の指導支援」「高大連携事業調整会議」「高校教員向け研修会」のつのプロジェクトを軸に、県内ならびに近隣県の多くの高校と連携している。

研究者視点からの継続的な探究支援で、
高校の指導が変わる
探究型学習の指導支援では、2019年度は8校、2020年度は9校の高校と連携し、高校生や高校教員の活動をサポートしてきた。その一例が、宮城県富谷高校だ。ユネスコスクールに認定されている富谷高校では、新学習指導要領の実施に先立ち、数年前から課題探究に取り組んできた。そして、現3年生の学年からは、3年間を通した本格的な探究学習として「T-time」を組み直した。探究を牽引してきた塗田宣幸先生は、課題探究に取り組み始めた当時の課題を次のように説明する。
「以前から大学の先生に出張講義に来ていただくことはありましたが、その場限りで、生徒の持続的な学びにつながっていないことが課題でした。また、いわゆる調べ学習止まりの生徒がほとんどで、私たち教員もどう指導していいのかわからないという状況でした」

T-timeの構想に際しては、「持続的な地域づくり」という大テーマを設定。近隣にあり、かつ、テーマにまさに合致する地域創生学類をもつ宮城大学に相談し、協力を仰ぐことになった。「そこから歯車がうまく噛み合うようになっていった」と塗田先生は振り返る。「私たち高校の教員は、生徒に正しい方法や答えを教えることに注力してきました。課題探究でもそこから抜け出せずにいたのですが、大学の先生から『研究では問いやテーマを作ることこそが大事』と伺い、自らテーマを決めて仮説を立て、実験・調査して検証する…という研究のプロセスを指導していただくなかで、私たち自身の考え方が大きく変わっていきました」

T-timeの流れはこうだ。1年次から2年次1学期にかけては、持続的な地域づくりに関係する知識をインプットしたり、まとめ発表をしたりして、探究の基礎を固める。2年次の夏休み明けに宮城大学の教員による基本講演があり、研究とは何か、いかにして進めるかを学ぶ。その後、生徒は数名のグループに分かれて探究テーマを決め、11月ごろに各グループが設定したテーマの検討会が行われる。さらに、年次中に2回の中間発表を経て、2年次の月に「収穫祭」と称した最終発表会を行い、優秀チームを選考する。テーマの検討会、中間発表、最終発表会には、先に講義を行った宮城大学の教員が参加し、生徒にアドバイスやフィードバックを行う。塗田先生と共に探究を推進してきた舘内浩二先生は、こう話す。
「テーマの検討会では、各グループが設定したテーマと研究企画書を提出します。それに対して大学の先生が、目の付け所が面白いね、このテーマはもう研究し尽くされているから発展性がないよ、これを実現するにはどうしたらいいかな…など、研究者としての厳しい目で助言や問いかけをしてくれます。これが私たち教員にとっても新鮮で、勉強になることばかり。テーマ設定によって探究がどこまで深まるかが左右されるんだと、実感しました。また、大学の先生から生徒の評価を聞くことで、生徒を多角的な視点で見られるようにもなりました。大学の先生の言葉は生徒にとっても説得力があるようで、ダメ出しをされたら積極的に方向転換をしますし、褒められるととても喜びます。そうした後押しで勢いがついて、大学の先生に直接質問をしたり、思わぬところまでテーマを掘り下げたりと、驚くような飛躍を見せるグループ、生徒も少なくありません」

進路選択、進路指導や
入試への向き合い方も変化
最終発表会には市長をはじめ外部の関係者も多数出席する。「いろんな方にコメントを頂き、自分たちの取組が社会とつながっているんだ、学術的に意味があるものなんだと生徒が実感できたことは、非常に意義深いこと」と塗田先生は言う。また、最終発表会を機に、宮城大学、富谷市、商工会議所などによる共同プロジェクトに、富谷高校の生徒がオブザーバーとして招集されることが決まった。「我々としても想定外の発展で、嬉しい悲鳴を上げている」と、塗田先生、舘内先生は顔を綻ばせる。

また、T-timeは、進路指導やキャリア教育の一環としても大きな役割を果たしている。「探究で取り組んだテーマに関連した学部への進学を希望したり、探究で身につけたスキルを活かして総合型選抜に挑戦したりと、早くも生徒の進路選択に変化の兆しが見えている」と塗田先生。「偏差値で進路を決めるのではなく、自分が探究を通して取り組んできたことと進路とを結びつけて考える生徒が確実に増えてきている」と舘内先生。さらに、大学入試の捉え方にも変化があったと言う。

「これまで生徒にとっても教員にとっても大学入試は越えるべき壁で、選抜する側とされる側という認識でしたが、大学の先生を身近に感じることで見方が変わったように思います。大学はこういう生徒に入学してほしいんだなという像が結べるようにもなりました。大学の先生に指摘していただいたことは、学年担任の先生や進路指導の担当とも共有するようにしています。さらなる高大連携により、進路指導や入試への向き合い方も変わっていく可能性を感じています」(舘内先生)

高大の教員の学び合いと相互理解が、
学びの接続を支える
宮城大学の高大連携事業では、高校生の学びを支えることに加え、高校の教員に向けて探究の指導法をレクチャーしたり、高校の教員と大学の教員が互いに学び合ったりする場を積極的に設けているのも特徴だ。塗田先生・舘内先生は、大学の先生から多くのことを学んだと語っていたが、大学側にとっても得るものは大きいと笠原教授は言う。「高大連携事業を通して高校生や高校の先生との交流が生まれることで、多くの気づきがあります。大学は研究機関であると同時に、学生を育てる教育機関でもある。それを改めて実感する機会になっていると感じます。また、高校生のフレキシブルな思考や豊かな発想は、専門に特化しすぎた私たちに、時に大いなる刺激を与えてくれます。そういった点でも、高校・大学双方にメリットのある取組だと言えるでしょう」  

高大接続においては入試も含めた検討が課題だが、宮城大学では入試をどう捉えているのだろうか。アドミッションセンター副センター長でもある笠原教授は、最後に次のように述べた。
「さらなる少子化により、多くの大学では入試における競争はなくなり、点刻みのペーパーテストで合否をつけることの意味は薄まっていくでしょう。また、入試のボーダーラインが下がることで入学者の多様化が進むことも予想されます。そこで大事になるのが、マッチング型の入試と初年次教育です。今後は、入学後教育を含めた接続型の入試を検討したいと考えています。そのためにも、高校と大学がさらに密に連携して相互理解を深め、高校から大学へ、さらにその先へと、生徒の学びにスロープをかけることが不可欠になるのです」

宮城大学の教員による基本講演時には、富谷高校卒の宮城大生も参加(昨年度は感染症対策のためビデオメッセ ージでの参加)。
高校生に向けて、探究学習が大学の学びにどのようにつながっているかなど体験談を語る。

富谷高校 主幹教諭
たてうち内浩二先生

富谷高校 ユネスコ企画部長
塗田ぬりた宣幸先生

宮城大学 高大連携推進室室長・アドミッションセンター副センター長
笠原 紳教授

取材・文/笹原風花