Symposium 【オンライン座談会】 高校生の「学びたい」を育てて、つなぐ、高大連携の先にある未来
これまで組織として、個人として高大連携に取り組んできた先生方に、大学と高校から二人ずつ参加いただき、高大連携の価値や課題、そして高校生の未来について本音を交えながら語り合っていただきました。
島根県立吉賀高校 教諭
中村美楠子
なかむら・みなこ●広島大学教育学部卒業。学生時代イギリスに留学。担当教科は英語。前任校の島根県立大東高校ではキャリア教育担当として先導的に「キャリア・パスポート」を導入。2019年より吉賀高校。
山形県立東桜学館中学校・高校 教諭
延沢恵理子
のべさわ・えりこ●高校教員初年度から教員生活のほとんどにおいて進路指導を担当。現在、キャリア教育を含む5つの研究会の運営事務局を担当。2016年より県内初の併設型中高一貫校である現任校に。中学1年から持ち上がり、今年度高校2年の学年主任。教科は国語。
桜美林大学 入学部 部長
高原幸治
たかはら・こうじ●桜美林大学大学院 大学アドミニストレ ーション研究科修士課程修了。中高生を対象に国際交流や留学を企画運営する企業を経て、2002年学校法人桜美林学園入職。国際交流、改組準備室、就職支援、学生支援などの部署を経て18年から現職。学長補佐(入学/高大連携担当)。
国立大学法人九州工業大学
工学研究院 基礎科学研究系 教授
中尾 基
なかお・もとい●大阪大学大学院 工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。堀場製作所、大阪府立大学を経て2006年九州工業大学。副理事(就職支援担当)、キャリア支援センター長、PBL教育推進室長などを併任。小・中学校・高校を対象とした出前講義は150回近くに。
――最初に自己紹介を兼ね、高大連携に関わった経緯をお聞かせください。
高原 桜美林大学入学部の高原です。以前は中高生の留学を支援する企業で働いていましたが、点ではなく線で若い人の成長に関わりたくなり大学職員になりました。そこで「高校生にさまざまな体験の機会を提供しなければ」と考えるようになり、「ディスカバ!」というプロジェクトを立ち上げました(図1)。延べ約1万人が受講するなど、一定の支持をいただいていると思っています(※1)。
高校が変わろうとしている今、
では大学はどう変わるのか(高原さん)
中尾 九州工業大学の中尾です。博士課程修了後、私も民間に勤めていましたが、研究に専念したくなり大学に移りました。2007年ごろからは、各地の高校や小中学校と連携し、出前講義や模擬講義を続けています。
学びをつなぐだけではなく、
人と人とをつなぎたい(中村先生)
中村 島根県立吉賀高校で英語を教えている中村です。学校のある吉賀町は、小・中・高校と地域が一体となったキャリア教育を推進しており、その一環で本校でも東京の大学生と交流を続けています。個人的にも、人と人とをつなぐことが大好きです。
延沢 山形県立東桜学館中学校・高校で国語を担当している延沢です。今は高2の学年主任ですが、進路指導一筋できました。私も人と会うのが好きで、大学の先生を含む全国の先生方と積極的に交流し、現場に活かしています。
――ありがとうございます。それでは、改めて実践に込められた思いなどを順にお話しいただき、質問や感想などがあれば発言していただければと思います。最初に高原さんお願いします。
高校生が自分を知り、
主体的に何かに取り組む機会を提供したい
高原 はい。桜美林大学ではAO入試、今でいう総合型選抜の出願書類を、私を始めとした入学部の職員が目を通すのですが、志望理由や4年間の学修計画を自分ごととして書けている高校生と、そうでない高校生の二極化が進んでいることが数年前から気になっていました。高校時代に力を入れたことも、最近では「探究」に関する記述が増えていますが、少し前は判を押したように部活動の話ばかり。自分を振り返り、整理・言語化する機会が減っていることに加え、経験自体が少ないと感じました。このままでは本学が求める学生とのマッチングが難しくなるという危機感から、自己分析のワークショップに加え、各界の専門家や教員協力の下、グローバル、SDGs、アートなど多彩な体験プログラムを高校生に提供するようにしたんです。
延沢 「自己分析」が大切なことはよくわかります。生徒は、自分ががんばってきたことの価値に気づいていないこともあって、面談してみると「すごいじゃん」と思えることが実はたくさんあるんです。ただ、時間も限られるなか、教師側の経験の面でも、すべての生徒の良さを引き出せているかというと難しさも感じます。こういう大学側の取組はありがたいです。
中村 自分を客観視できないという点では、うちの生徒も自分たちが住んでいる地域の良さに気づいていません。でも、後で話しますが、東京の大学生と交流するなかで「なんにもない場所だと思っていたけど、こんな魅力があったのか」と気づくわけです。受験ガチガチの学校ではないため、総合型選抜を見据え、「自分はどんな経験をし、何に気づき、どうしていきたいか」を言語化できるよう指導しています。
延沢 もう一つの「経験不足」についても心あたりがあって、私がいた進学校では勉強と部活動だけさせがちでした。外に出すと誘惑があり、生徒を迷わせ、勉強の効率が悪くなると考えたからでしょう。しかし、やりたいことは知っていることの中からしか生まれません。キャリアの面でも、腹落ちする学びや深い思考のためにも、経験値を増やす重要性を感じています。
高原 その際、自発的であるかどうかが重要ですよね。高大連携のさまざまな取組も、いかに主体的になれるかがカギ。例として適切でないかもしれませんが、首都圏では出張講座などの手配を業者さんがすることがあります。でも業者任せにすると、どうしても生徒さんは受け身になってしまいます。
中尾 わかります。出前講義に行って生徒さんが前のめりだと感じるのは、高校の先生が主体的で、生徒との信頼関係も厚いように見えるクラス。やらされている感が少ないのか、後からいただく感想も心に刺さるんです。
ーー中尾教授が十数年前から出前講義を続けてこられた理由は何でしょう。
「勉強=つらいこと」
という思い込みを外したい
中尾 正直、最初は大学の方針でノルマ的に始めたんです。それを見透かされたのか、物理や半導体の話をしても高校生は面白がってくれません。そもそも大学の教員は教育に関心がない人も多く、私も代頃まではそうでした。やはり研究が楽しいんです。でも、教育改革の担当となり、PBL(図2)やアクティブ・ラーニングを取り入れることで学生が目に見えて成長し、教育にやりがいを感じるようになったんです。それに伴い出前講義にもPBLの要素を取り入れていきました。答えがある学びに慣れている子どもたちに、そうではない学びがあることを知ってほしいと思っています。
本音を話すことが高大連携の第一歩。
そこから何かが見えてくる(中尾教授)
延沢 大学の先生って研究に没入なさるじゃないですか。その姿を高校生が見て、「学びってかっこいい、楽しそう」と思えることが大切だと思います。一方で、1の楽しさの裏には99の努力があるわけで、そこを見落とすと、「なんだ。大学に入ったらつまらんかった」となってしまいがち。なので「面白さって、苦労を背負ってでも向き合うことなんじゃないの」と伝えるのも高校教師の役目かなと思っています。
中尾 確かに、良い面ばかり見せてはいけませんよね。ただ、現実的なことを言い過ぎても、やる気が失せてしまう。バランスが難しいですが、個人的には「勉強=つらいこと」という思い込みを外すことを優先したいです。
高原 「好きなことをしていれば、そのうち周辺領域で必要なことが生じ、学ばざるを得なくなる」と話す教員がいました。意欲と学力はどちらも欠かせませんが、どちらかというと最初は私も前者を重視したいと思っています。
異質なものとの出会いによって
価値観を揺さぶる
ーー続いて、中村先生。吉賀高校の実践(図3)と、それが生徒に与える効果についてお話しいただけますか。
中村 10年近く前、青山学院大学や法政大学の学生さんが田舎体験にきたことを契機に交流が続いています。うちは全校生徒100人強の小さな学校で進路も多様。大学進学者が分のという環境で、東京の大学生との交流にどんな意味があるかというと、異なる背景をもつ人と接することで、地域や自分たちの学びに実はすごく価値があることに気づくわけです。例えば、河原での火起こしを大学生は悪戦苦闘しているのに自分たちはさらりとやってのける。そんなことからも「自分は何が得意で、人にどう貢献できるか」といった自己分析や、「町のことをもっと知って良くしたい」という当事者意識も生まれます。進学するしないに関係なく、いろいろなことを考える機会になっているんです。(※2)
延沢 そうした経験で、進路や未来が大きく変わるかもしれませんしね。異質なものとの出会いは、それまで考えもしなかった可能性の扉を開くことなのかなと思いました。
中村 ですよね。当たり前と思っていた価値を一旦壊すことで、深い学びにつなげる子もいれば、多様な人との出会いをきっかけに、地域の中でやりたいことを見つける子もいます。
高原 「ディスカバ!」も、進学校から進路多様校まで幅広く参加してくれることが醍醐味の一つ。普段の教室と違い、異なる高校生との出会いは、価値観を揺さぶる効果がすごくあります。
中村 価値観が揺さぶられるのは大学生も同じで、卒業後、島根県で就職する学生さんもいて嬉しく思います。
中尾 研究室の大学院生も、ティーチングアシスタントとして出前講義に参加するたび刺激を受けています。特に小学生は好奇心旺盛で、「なぜ、どうして?」と質問攻めですからね。
皆さんの話を伺いながら、高大連携って、携わる人すべての成長や、地域の未来などSDGs的なものにもつながると感じてきました。
互いにとって実りの多い
Win-Winの関係をいかに築くか
ーー最後に延沢先生。個人としてさまざまな実践(図4)を行っていると聞いていますが、例えばどのような?
延沢 はい。例えば前任校では研究室訪問の「リメイク」を担当しました。生徒の課題研究と大学の研究室をマッチングしたかったんですが、それまでは、大学の先生のご専門と関係なく地元の大学に送り出すものでした。そこで範囲を東日本に広げ、生徒の研究テーマに合った研究者をreserchmap(※3)で探し、一件ずつお願いのメールを送ったんです。大学側には、専門分野の後進を育てる点で喜んでいただけて、進学につながった例もあり、双方にとっていい取組になりました。私も、大学の先生方とのご縁ができました。
中村 私がいつも思うのは、高校のメリットだけを押しつけてはいけないということ。いかにWin-Winの関係にするかミーティングを重ねています。
延沢 そこは気をつけたい点です。私は有志の研究会を複数立ち上げていて、大学の先生を招いてお話を聞く機会もあるため、大学の先生が置かれた大変な立場もわかってきました。なので、高校側の都合での無理なお願いによって、貴重な研究の時間を奪っているのでは、と申し訳なくもなるのです。
中尾 お気遣いありがとうございます。ただ、人に教えたり、一緒に考えたりするなかで、新たな見方や発見につながることって多いんです。ノーベル賞受賞者の数が、研究機関より大学の教員に多いのも、日常的に教育に携わっているからではないでしょうか。そのうえで、先ほどの「高大連携って広い視野で行うもの」という話につながるんですが、残念ながら大学が行う出前講義って、高校生に大学の名を売る広報目的になりやすいんですよね。そこは気をつけようと思っています。
高原 確かに高大連携は、立地や学力帯を含め関係性の強い高校に偏りがちになります。高校生の成長にフォーカスするべきなのに大人の思惑が介在するとややこしくなる。とはいえ、大学は学生募集につながるかが判断材料の一つになります。「ディスカバ!」も当初は本学志願者のみを対象にしようと考えたこともありますが、思いとどまりました。結果として全国からさまざまな興味・関心をもつ、多様な高校生が集う学びの場をつくることができました。
中尾 インターンシップの枠組みも同じで、大学の思惑と企業の思惑があって、目先の利益にとらわれると青田買いになる。そうした社会構造から抜け出さないといけませんね。
自ら手を伸ばし
自走するマインドを育むために
ーー実践をひと通り伺ったところで、せっかくなので互いへの要望があれば。
中尾 工科系大学の教員として少し気になることがあるのでいいですか?探究というキーワードで高校生の発表が行われることが増えましたが、全体のレベルが落ちた印象があるんです。以前は、SSHの課題研究や、科学部や生物部の生徒さんを中心にワクワクする発表が多かったんですが…。全員で探究しようとか、入試でそれを評価しようという流れのなかで、逆に尖がった高校生を埋没させることにはならないでしょうか?
延沢 人って多様なんだから、やり方は違っていいはずなのに、教育の世界って「みんなでやろう」となりがち。良し悪しはともかく、みんなでやれば当然、平均値は下がりますよね。
高原 本気で取り組みたいテーマなのかどうかも大きいでしょう。エンジンがかからないと探究も「やらされ感」満載になりますから。ただ、高校のカリキュラム内で大学生顔負けの研究をしようと思うと限界があるため、「この辺までは正課の時間でやって、その先は大学のリソースを使い、ここは自分自身でやり遂げる」といった組み合わせを、周囲の助言を受けつつ生徒さん自身が考えなければいけないと思います。
中村 探究の質を本気で高めようと思ったら個別最適化を進めていくしかなく、それこそ外部の力も必要になります。ただ、一般の高校でできることは、課題を見つけ、それに対してどうしたいかを考え、自走できるよう準備するところまでかなと。でも、それができるってすごいことですよ。
延沢 私も、自分から手を伸ばせるようになることが大切だと思っています。それさえできれば、受験も、その後の学びも自分の力で乗り越えて行ける気がします。高校と大学の違いは何かといえば、「教えてもらうマインド」から「自分で学ぶマインド」に変わることっていわれていますよね。今は、高校でも探究やアクティブ・ラーニングなどを通じて、そういうマインドに切り替えやすいのでは?
中尾 私などはつい研究の中味を問いますが、もっとゴール地点を低くして、学びに向かう態度に注目すればいいんですね。「大学は自分で学ぶ場所。そのために高校までに何を身につけておけばいいか」といったマインドを理解してもらうだけでも高大連携の意義はあるのかもしれません。
単につながればいいのではなく、
何のために、どのようにつながるか(延沢先生)
育てて、つなぐ。
その先の未来
ーー最後に、これからの高大連携で大事にしたいことをお話しください。
中村 地方の小規模校を代表するなら、学びをアカデミックなものにつなぐだけではなく、人と人とをつなぐことが大切だと思います。大学生や大学の先生に限らず、身の回りの人とも幅広く交流しながら、地域の持続可能な新しい形を考えられたらいいなと。ICTによって地方と都市部をつなぐことも容易になってきたので、多様な人と一体となって課題解決していくような高大連携を模索していきたいです。
中尾 大学の人間としては、一部の教員ではなく、数多くの教職員が、もっと高校の先生や高校生と接する機会をもつべきだと思いました。それによって、気づかなかったものが見えてくるようになる。まさに本日の座談会のように、互いの本音を話してみることが、高大連携の一歩だと思いました。
高原 探究を柱とする新学習指導要領によって高校が変わっていったときに、 では大学はどう変わるのか。高校生に、「なんだよ」とがっかりされるのではなく、「やはり大学の学びは面白い」と思ってもらえるよう、大学の価値について考え続けていきたいです。
延沢 改めて、単につながればいいのではなく、何のために、どのようにつながるかが大切だと思いました。今日の座談会のテーマに「育てて、つなぐ」とありますが、それだと教師が主語になりかねないんですね。生徒が主語になることなしに、高大接続はありえないのではないでしょうか。
あと、やはり大学は大学でいてほしいとも思うんです。大学でしかできないこと、高校でしかできないことがあるはずで、そこを曖昧にしたままだと、乗り越えるべき「ステップ」が、「スロープ」になってしまい、成長を阻害する可能性もあるのでは。今後は、高大接続の連続性のみならず、非連続な設計にも目を向けて、互いがなすべきことの問い直しが大切だと思いました。貴重な機会をありがとうございました。
取材・文/堀水潤一