教えて!「『特異な才能』のある生徒への指導・支援って?」

文部科学省の有識者会議が、「特異な才能」のある児童生徒の指導・支援についての論点整理をまとめました。どのような提言をしているのでしょうか。「ギフテッド」という言葉は使わないということですが、どうしてでしょう。

「『特異な才能』のある生徒への指導・支援って?」

 有識者会議は、1月の中央教育審議会答申を基に、6月に設置されたものです。中教審答申は、「個別最適な学び」と「協働的な学び」が実現された姿を「令和の日本型学校教育」だとしており、この中で、義務教育段階から「特定分野に特異な才能のある児童生徒が、その才能を存分に伸ばせる高度な学びの機会にアクセスすることができる」ことを課題の一つに挙げました。一方で、答申は「領域依存的な才能を伸長する教育や、特異な才能と学習困難とを併せ持つ児童生徒に対する教育も含めて考える方向に変化している」とも指摘しています。

 有識者会議が今回の論点整理で、ギフテッドという用語を「使用しない」と宣言したのも、そうした動向を踏まえたものです。そもそも「特異な才能」は、多様です。言語、数理、科学、芸術、音楽、運動など、さまざまな領域に高い能力を示しても、必ずしも「万能の天才」とは限りません。一方で、周囲と話が合わせられなかったり、こだわりが強すぎてストレスを感じていたりするケースもあるといいます。

 「特異な才能と学習困難とを併せ持つ児童生徒」は、2E(Twice-Exceptional)とも呼ばれます。発達障害なども含め、2重の配慮が必要な場合が少なくありません。発達障害と同様、一人ひとりは多様であり、その子に合った対応が必要になります。また、いずれの場合でも、将来的な自立や社会参加を見据えて、社会性を育てることは不可欠です。

 そのため、一律の基準で「才能」を定義し、特定の子のみを取り出して特定のプログラムを提供することは望ましくない――というのが、有識者会議でおおむね同意された方向性です。とりわけ義務教育段階では、飛び級などの「完全早修」は慎重に検討すべきだとしています。

 特異な才能のある児童生徒への具体的な対応策や、才能・特性の見いだし方、教員研修の取り扱いなどは、年明け後に本格的な詰めを行うことにしています。一方で論点整理では、教員の負担増加につながらないよう注意を促しています。

 もっとも論点整理が指摘する通り、義務教育段階とは違って「選択肢が多い」高校段階では比較的対応がしやすいかもしれません。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)をはじめ、スーパーグローバルハイスクール(SGH)の後継事業である「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」など指定事業の他、校外でも科学技術振興機構(JST)の「グローバルサイエンスキャンパス」など、今も学ぶ場はたくさんあります。情報通信技術(ICT)の活用を含め、全国どこからでも多様な学びの場にアクセスできるようにすることも、ますます重要になります。
 
 一方、進学校であっても、学力が高いからといって、生徒の困りごとを放置してきたことはなかったかという視点も必要です。まさに「多様な児童生徒を誰一人取り残さないという観点」(論点整理)から、柔軟なカリキュラムや指導・支援が求められます。総合的な探究の時間や理数探究は、「特異な才能」の有無にかかわらず生徒一人ひとりの能力や意欲を伸ばす機会としたいものです。

 なお10月には、高校時代に大学の科目等履修で取った単位が大学入学後に算定されて4年を待たずに卒業できる制度(いわゆるアドバンスト・プレイスメント=AP)が施行されました。今後、高大接続をますます進めていくことも求められるでしょう。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/