教えて!「個別最適・協働的な学びの特別部会って?」

 中央教育審議会の「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」が2月7日、初会合を開催しました。いったい何が話し合われるのでしょうか。専門紙では、1人1台端末を活用した学習・生徒指導やデジタル教科書・教材の在り方を検討すると報じています。要するにICT(情報通信技術)教育の話なのでしょうか。

「個別最適・協働的な学びの特別部会って?」

 特別部会は、1月14日に開かれた中教審の初等中等教育分科会で、設置が了承されました。主な検討事項は「個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実するため」の①一人一台端末等を円滑に活用した児童生徒への学習指導・生徒指導等の在り方について ②教科書、教材、関連ソフトウェアの在り方について ③学校内外の環境整備の在り方について ④その他――とあります。初会合では、特別部会の下に教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループ(WG)を設置することも決まりました。

 ところで、この特別部会には奇妙なことが幾つかあります。まず、1月の初中分科会の際、事前に公表された議事次第には「(6)その他」としか書かれておらず、当日になって「(6)部会の設置について(7)その他」と書き換えられました。

 しかも特別部会の初会合で文部科学省を代表してあいさつしたのは、事務方トップの義本博司・事務次官でした。初中分科会の下に置かれる部会であれば、初等中等教育局長クラスが通例です。

 さらに、荒瀬克己部会長(初中分科会長)から全員に発言を求められた出席委員には「どの観点で意見したらいいか、はっきりしていない」(岩本悠・一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事)など、戸惑いの声が少なくなかったことです。

 こうした奇妙さを解消する糸口は、幾つかあります。まず、初会合の議題の一つが「高校の新学習指導要領スタートを契機とするこれからの高校教育について」だったことです。もちろん新指導要領の実現にも個別最適な学びと協働的な学びが求められることは2021年1月の中教審答申が強調していたことですし、1月には末松信介文科相と牧島かれんデジタル相が連名で高校でも1人1台端末を整備するようメッセージを発していました。しかし、どうやらICT教育にとどまらないようです。

 さらに、初会合で部会長代理に指名された堀田教授が「『学校教育の在り方』に関する特別部会であることの重さを感じている。現在の教育制度に制度疲労があるのであれば、どう見直すか根本的なところから考える部会になる」と発言したことも注目されます。

 もっと大きな糸口が、文科省の外にあります。特別部会から2日後の9日、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)教育・人材育成WGの会合が開かれました。そこで「政策パッケージ」の素案に、特別部会の役割が位置付けられたのです。それも▽教育課程の在り方の見直し(政策1①) ▽学校の役割、教職員配置や勤務の在り方の見直し(政策1③) ▽子供の状況に応じた多様な学びの場の確保(政策1④)――と、複数の政策にわたっています。政策パッケージは、関係府省との対話により今後5~10年にわたる役割分担も決めるものです。

 とりわけ教育課程の見直しに関しては、22~24年の特別部会での議論を経て、25年から改訂の議論・作業を行い、27年に「改訂(見込み)」というロードマップ(工程表 政策パッケージp.30)を示しています。これまで指導要領はおおむね10年に1度改訂されてきましたが、中教審に諮問する前にこの特別部会で3年間「基本的な方向性を検討」するとされたわけです。

 特別部会の委員は11人で、教育課程の専門家は多くはありません。しかし今後も、新たなWGが設置される可能性はあるでしょう。まだ高校は全面実施の前ですが、「次の改訂」に向けた準備が実質的に始まっているとみるのは、先走り過ぎでしょうか。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/