Voice 現場の声から考える 高校はどう社会と共に歩むか
本誌に届いた学校現場からの声に基づく5つのテーマについて、試行錯誤しながら取り組んできた4人の教員・コーディネーターと共に考えていきます。
一緒に考えていただきました
NPO法人DNA
代表理事
沼田翔二朗さん
「群馬の10代に、しなやかな学びを。」を掲げ、主に群馬県の学校と連携。キャリア教育や探究のプログラム開発・実践の支援、外部機関との連携・折衝などに取り組んでいる。認定キャリア教育コーディネーター。
れいめい高校(鹿児島・私立)
普通科普通コース長
上門大介先生
文理科、普通科(普通コース/キャリアアップコース)、工学科を設置する中高一貫校で、総合的な探究の時間、学校設定科目「キャリアアップ」の授業を担当。数年前から地域と連携したキャリア教育に着目し、取組の幅を拡大してきた。
高津高校 定時制(神奈川・川崎市立)
進路部主任
松本智春先生
「こんな学校を卒業して何になるのか」という高校を中退した生徒の言葉でキャリア教育の重要性に気づき、学校外に知見を求めるように。生徒の活動を支援する地域の有志団体「TEAM NETSUGEN (ネツゲン)」発起人の1人。
太田高校(群馬・県立)
校長
丸橋 覚先生
「主体的・対話的で深い学び」「カリキュラム・マネジメント」「社会に開かれた教育課程」の3点を重視した学校づくりに注力。これまで校長として赴任した3校では、いずれもキャリア教育や総合的な探究の時間などをコーディネーターと連携して実施。
テーマ1
学校外の人と、
どうやってつながる?
【現場のモヤモヤ】
●連携を行いたいが、その進め方がよくわからない。(探究担当)
● コロナ禍で地域に関わる機会が減少。地域人材の確保が困難に。(教頭)
● 魅力的な大人との出会いが少ない。(教頭)
まず自分が社会とつながる。
ホームページでの募集も手
〝学校として〞の前に、まず自分が社会とつながることを心掛けてきました。県外にも積極的に足を運んでさまざまな方と出会い、探究心をもって話をしています。そこで自分が吸収したことは生徒に伝え、直接生徒に話を聞かせたい方は学校に招く場合も。先方から協働プロジェクトに声を掛けていただくケースも出てきました。 また、今後の案として、学校のホームページを通じて、地域の方に探究活動のパートナーを募集してはどうかと考えています。教員が諦めず努力することで、きっと共感していただける方が出てくると信じて行動していきたいと思います。(上門先生)
町のカフェや公民館で
交流のきっかけを探す
地域とのつながりの糸口を探すなら、町のカフェや公民館に足を運んでみてはいかがでしょうか。地域のイベントや勉強会のチラシが置かれているので、人材探しや交流のきっかけを見つける参考になると思います。(沼田さん)
思いを共にする地域の方々と
ネットワークを形成
私の最初の一歩は、キャリア教育のヒントを求めてインターネット検索し、ヒットした団体・個人に片っ端から話を聞きに行ったことです。そこから当時の勤務校のキャリア教育への協力を得るようになり、2017年、地域の方と一緒に、「地域の子どもたちを未来の力にしていく」を掲げる有志団体「TEAMNETSUGEN(ネツゲン)」を設立。地域のコミュニティやイベントに積極的に参加し、自分がなぜこのような活動をしているかを話し続けたところ、今ではメンバーが150人近くに。経営者や専門家、行政の職員など多彩な人材がいるので、SNSのグループで「〇〇に詳しい方いませんか」などと呼びかけると、たいてい何かしらの情報が返ってきます。本校生徒のプロジェクト活動や職場体験などを推進していく大きな力になっています。(松本先生)
こんな取組も!
テーマ2
協働する意義や目的を
どう全教員で共有する?
【現場のモヤモヤ】
● 地域と協働する意義を見出さない先生もいる。(教頭)
● 学校外での活動は「生徒の時間を取りすぎる」「部活動がしにくい」と校内から不満が出る。(探究担当)
● 連携のための連携、との意識も垣間見える。(進路指導部)
成長の姿とエビデンスが
賛同者を増やす
数年前、本学園中学校で卒業生に協力を仰ぎ、生徒が多様な職業の方の経験を聞いて自分の将来を考えるプログラム「夢発見プロジェクト」を立ち上げました。当初、校内には負担の大きさや授業時数の確保を懸念する意見も多かったのですが、私にはこれから求められる力の育成や、より広い視野による進路発見につながるとの読みも。実施すると大きな刺激を受ける生徒の姿が見られ、少しずつ賛同者が増加。今では外部連携による探究活動も活発に行うようになりました。
こうした活動が学力を含む生徒の成長につながっている手応えはありますが、それを数字で示すことも、先生方の理解を広げるにあたっては大切です。非認知能力測定ツールなどを導入して示すことにも力を入れています。(上門先生)
ミドルリーダーと連携し
負担の軽い方法で始める
社会との接点をもつ取組の経験がない先生方が多いなか、一気に全員同じ意識で取り組んでいくのは大変です。そこで、まずは先生方の負担が少ない形で〝始めてみる〞ことを大切にしています。校長として明確に方針を示すとともに、共感してくれる先生をミドルリーダーとし、しっかり対話しながら中心となって動いてもらっています。そして、実践のなかで生徒が生き生きと取り組み、意欲が高まる様子から、徐々に先生方に活動の意義が浸透していくと感じています。
また本校では、先生方の負担の軽減と、学校にない発想を取り入れることを狙って、今年度から探究学習のコーディネートを外部委託。探究プログラムの設計や授業のファシリテーションなどに協力を得ています。先生方は、一緒に取り組むなかで効果的な実践ノウハウを学んでいるようです。(丸橋先生)
こんな取組も!
※SWOT分析=強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の4つの項目で整理して、現状分析する方法
テーマ3
学校のねらいや目標を
どう社会に伝える?
【現場のモヤモヤ】
● 探究という長期的な学習に、地域の方々に伴走していただきたいが、単発イベントではないことを理解してもらうことが難しい。(探究担当)
● 社会の方は、意外と学校の現状や課題をよく知らない。(探究担当)
全教員で話し合った目標や
取組の様子をWeb発信
まず学校の目標が、教員全員の対話などによって、納得して言語化されたものかが大切。そうなっていれば、外部に対しても説得力をもって伝えることができ、軸がぶれずに協働していけるのではないでしょうか。そのうえで、学校ホームページには、目標の掲載はもちろん、日々の活動報告も行い、学校が目指す方向性の具体的な発信も重要です。本校でも、写真を前面に出すなど、思わず読みたくなる情報発信の方法を模索しています。(丸橋先生)
共に地域の未来を
創っていくイメージを共有
地域の方には、定時制の中退や不登校の状況、卒業後の自立の困難さなども率直に伝えたうえで、「支援しやすい高校時代のうちに彼らを地域の力になるよう育てられないか」「学校と地域が一緒に彼らの居場所づくりに取り組んでいけないか」と問いかけるようにしています。地域ぐるみで子どもたちを未来の地域の力とすることで、面白い地域になっていくイメージの共有を心掛けています。(松本先生)
目指したい生徒の姿を
具体的に伝える
例えば職業人講話の場合、ねらいが「仕事の面白さを伝える」か「職業の選択肢を広げる」かによって生徒に話す内容は変わります。連携先に学校側の目標を伝えることは非常に大切です。コーディネーターとして私が意識しているのは、目標を〝具体的な状態〞で伝えること。例えば「主体性の育成」に重点を置くなら、「自分から質問できる状態を目指したい」と具体化して伝えると、質問が出る雰囲気づくりなどの工夫につながります。また、活動後に連携先からリフレクションをもらい、目標自体をブラッシュアップしていくことも大切だと思います。(沼田さん)
こんな取組も!
テーマ4
協働を持続・発展
させていくポイントは?
【現場のモヤモヤ】
● 生徒の訪問先からのクレームに過敏に反応してしまう。(探究担当)
● 外部の方に対し「教育には協力して当然」という意識の教員もいる。(探究担当)
● 外部講師の講演会を、教員が聞いていない。(探究担当)
連携先の方に先生方が
どう関わるかも大切
一足飛びではなく、最初は学校外の方に対するスポットでの関わりの〝お願い〞から始め、徐々に〝共に育てる〞対等な関係性に発展させていくのが自然な流れ。ただ、そのなかで先生方から「一緒に取り組んでいこう」というメッセージが発信されるかどうかは、パートナーシップに大きく影響すると思います。私は外部講師として学校に伺ったとき、先生方のもとに行き、「生徒の様子はどうでしたか?」「次はどんな指導につなげる予定ですか?」とコミュニケーションすることを心掛けています。私の講話を共通の話題として、先生方と意見交換し、お互いの理解につなげられたらと思うからです。
しかしながら、社会との協働が進んでも、生徒の日常を支えていくのはやはり先生方です。外部講師にお任せした講話や活動に、ぜひ先生方も参加し、生徒の反応を見ていただければと思います。(沼田さん)
持続可能な協働体制は
ゆるやかな関係性から
教員には人事異動がつきもの。私が離れても本校への支援が続くよう、有志団体ネツゲンを地域主導の活動にすることを目下の目標とし、メンバーの方に前面に出ていただいています。
とはいえ、何でもかんでも学校や子どもに関連した取組をしなければならないとすると、メンバーの皆さんの重荷になり、活動自体が続きません。子どもたちのことを頭の片隅に置きつつも、大人同士で楽しい活動を考え、そのなかで何かやろうと盛り上がったとき、「じゃあ高校生にも声を掛けよう」と思い出していただく。そのぐらいを目指すのが、持続可能な学校と地域の関係性のポイントではないかと思います。(松本先生)
こんな取組も!
テーマ5
予算がないと、
何もできない?
【現場のモヤモヤ】
● 自由に使えるお金がない。(探究担当)
● 連携先に交通費ぐらいお支払いしたいが…。(教務主任)
● 予算をたくさん使える学校にはかなわない。(探究担当)
卒業生や保護者の協力、
オンラインで機会を拡大
予算が潤沢ではないなか、著名な方をお招きすることは難しいのですが、身近にも魅力的な方はたくさんいらっしゃいます。本校はさまざまな仕事に就いている卒業生や保護者の方にだいぶ助けていただいています。
また、コロナ禍でオンライン活用が進んだことで、遠方の方にはこれまで以上にご協力いただけるようになり、社会接点の幅は確実に広がったと感じています。(上門先生)
受益者負担で
探究をバージョンアップ
本校では探究コーディネーターへの委託費を、教材費等と同様に生徒の家庭にご負担いただいています。一人あたり模試回程度の費用で、年間の探究活動がバージョンアップできるという価値をご理解いただいています。
また、生徒自ら企業・団体に依頼して話を聞かせていただく場合は、金銭ではない形で先方にメリットを感じていただけるような関係性づくりを心掛けています。(丸橋先生)
こんな取組も!
▼ 生徒が地域を元気にするために打ち上げ花火を企画。生徒自身がPTA役員会で保護者にプレゼンをして協力をお願いした。単なる活動報告より、生徒の成長につながったと思う。(教務主任)
現場の手応え
一歩を踏み出し、見えてきた変化の兆し
● 以前は「生徒が校外に出る」=「学校の事前指導が試される場、失敗や失礼は許されない場」と考える教員が少なくなかった。それで例えば、連携先に教員が予め連絡を入れたうえで、生徒が形式的に電話するといったことが行われていた。背景には「うちの生徒にはできない」との意識があったと思う。しかし、生徒が実際に動き成長する姿を見て、生徒たちを信頼しようとする教員が増えた。(探究担当)
現場と社会は「連携」から「共創」へ
今、学校現場で重要性が増す
「コーディネート機能」
学校と社会の連携は
より共創的に
―奥田さんは、隠岐島前高校のコーディネーターとして地域と連携したカリキュラム作りや高校生のプロジェクトの伴走を行うなど、約10年間、学校と社会をつなぐ取組に携わってきました。そのなかで、連携状況はどう変化してきたでしょうか。
隠岐島前高校などでは、「地域に学校を存続させるために高校を魅力化しよう」と高校と地域との協働が始まり、当初、地域課題が前面に出ていたように思います。しかし、生徒が地域に出て学ぶなかで大きく成長する姿が、状況を変えました。「未来を担う子どもたちを社会と共に育てていこう」との意識が学校現場に広がり、その協働モデルは全国の高校にも影響を与えてきました。今では産業界もその一端を担おうとする動きが活発に。連携の可能性は、高校の周辺地域から社会全体へと広がっているのではないでしょうか。
また、先駆けて取り組んできた高校では、連携の仕方が変わってきました。ある高校では、地域から課題を与えてもらって生徒が取り組むという探究学習が、テーマを決めるところから高校生と地域社会の大人たちが一緒に行う方法に変化。別の高校では、地域の大学や行政、企業と共に目指す生徒像を話し合い、商工会議所が高校生のプロジェクトに出資して支援するような取組も始まっています。高校生を「一緒に社会をつくる仲間」とする、学校と社会の共創的な取組が多数生まれてきました。
カタチだけの「連携」ではなく
「共創」にしていくために
――より実質的な取組にしていくには、どんなことが必要でしょうか。
地域との協働においては、3つのコーディネート機能の必要性が整理されています(図)。協働の対象を広く「社会」と捉えた場合も、同様の機能が求められると思います。
その1つ目は、高校におけるコーディネート機能です。学校の目標や生徒の実態に基づいて、地域社会と関わる教育課程の企画・運営や、地域側との連絡調整が必要となります。
2つ目は地域におけるコーディネート機能。地域側の視点に立ち、地域資源の掘り起こしや、学校外での生徒の活動の支援などを行う機能です。学校が所在する地域のNPOや商工会議所などが担う例が出てきています。
高校と地域、どちらか一方の論理だけで進めてしまうと、他方が「我慢して付き合う」という状況になりかねません。これら2つのコーディネート機能が発揮され、高校側の教育目的と地域側の期待が重なる部分を、丁寧に探っていくことが大切でしょう。
そして3つ目は協働体制におけるコーディネート機能です。連携の規模が広がるなかでは、属人的な力に頼るのではなく、コンソーシアムのような協働体制を構築し、組織として持続的な活動にしていくことが重要になります。
文部科学省 2019年度
「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」
「高校と地域をつなぐ人材の在り方に関する研究会」
報告書より
コーディネーター配置に
向けた動きが加速
――コーディネート機能が必要でも、それを先生方が担うのは大変です。
私も、先生方だけで担っていくことは、非常に難しいと感じています。3年前に5カ月間、公立中学校で産休代替の教員を務めたのですが、授業の準備から実施、部活動の指導、保護者対応…と想像以上に多忙な日々。コーディネート機能をもつ教員になりたくて手を挙げたのに、とてもそれどころではありませんでした。
例えば島根県では、各校にコーディネート機能を担う主幹教諭を加配し、同時に教員とは別に市町村等がコーディネーターの配置も行っています。コーディネーターの導入状況は都道府県によって異なりますが、島根県では2012年ごろから地域おこし協力隊制度も活用して県立高校への「高校魅力化コーディネーター」の配置が進められ、その数は60約人(21年5月)にまで増えました。
国の動きを見ると、中央教育審議会の答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」(21年)では、高等教育機関や地域社会などの関係機関と連携・協働した高度な学びの提供に向け、人材配置も含めた、関係機関との連携・協働のコーディネート体制構築の必要性が指摘されています。
また、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議においても、探究・STEAM教育を推進していくため、「学びの設計・コーディネートや、大学や企業等との連携をコーディネートできる人材が高校に常時いる状況」が提案されています。こうした予算措置も含めて検討されている国の施策も後押しし、今後、全国的に高校へのコーディネーター配置が進んでいきそうです。
――教員でも事務員でもないコーディネーターが学校内に入ることに、先生方には戸惑いもあるのでは?
私もコーディネーターになった当初は、先生方から「何をする人?」という疑問の目を向けられたものです(笑)。そこで、まずは総合的な学習の時間などを一緒に運営するなかで、地域と連携してどんな学びの場をどうつくろうとしているか、現場を見ていただきました。多くが教員以外の職業経験をもつコーディネーターの生徒への関わり方は、先生方の目に新鮮に映るようです。私もよく「生徒へのアドバイスの視点が教員とは全然違う」と言われました。また、探究的な授業での生徒の様子に触発されて、ご自身の授業方法をちょっと変えてみたり、生徒に預ける時間を増やしたり、自然に授業改善が進むこともあるようです。
先生方もコーディネーターも、生徒を成長させたいという思いは共通。その実現方法の幅を広げることが、コーディネーターの大事な役割だと思っています。
「学校と地域をつなぐパターン・ランゲージ」のワークカード。
チ ームでの振り返りや研修などに活用できる。
Webサイトから詳細情報の入手が可能。 https://cn-miryokuka.jp/338/
生徒と共に、先生方も
変化を楽しんで!
――社会と共に生徒を育てていこうとする学校へ、コーディネーター経験から伝えたいことはありますか。
地域・教育魅力化プラットフォームでは、社会に開かれた学校をつくるヒントをパターン・ランゲージとしてまとめました。これは、コーディネーターが大事にしていることや考え方など、実際の経験則を抽象化した、の「ことば」で構成されたもの。「一人で解決しようとせず、自分をひらき、解決できる人をつなぐ」「相手そのものをリスペクトする」「まずは同じ体験をし、認識をそろえるところから」などの実践知は、先生方にも、社会と共に生徒を育てるヒントになると思います。ぜひ参考にしてみてください。
社会とのつながりをもつことは、先生方にとってもご自身を開いてアップデートさせるチャンスといえるかもしれません。〝学校の内と外〞と一線を引くのではなく、ぜひ生徒と一緒に楽しみながら取り組んでいただけたらと思います。
取材・文/藤崎雅子