教えて!「教育未来創造会議では何を議論しているの?」

 教育未来創造会議のワーキンググループ(WG)が18日に開かれ、5月にもまとめる第1次提言の素案を検討しました。一部学生に高等教育を無償化する「修学支援新制度」の拡充を提言する、という一部報道もありました。どういう会議で、何を議論しているのでしょうか。

「教育・人材育成に関する政策パッケージって?」

 未来創造会議は、昨年12月の閣議決定で設置が決まったものです。設置理由を「我が国の未来を担う人材を育成するためには、高等教育をはじめとする教育の在り方について、国としての方向性を明確にするとともに、誰もが生涯にわたって学び続け学び直しができるよう、教育と社会との接続の多様化・柔軟化を推進する必要がある」と説明していました。社会人の学び直しや、大学をはじめとする高等教育を中心としながら、それと密接に関係する初等中等教育についても提言する方向です。

 設置に伴って、教育再生実行会議(2013年1月に閣議決定)は廃止となり、検討課題を引き継ぐことになりました。

 議長は岸田文雄首相で、議長代理は松野博一官房長官と末松信介文部科学相。指名された関係閣僚は鈴木俊一財務相ら7人です。これに加わる15人の有識者が、WGも構成します(座長は日本私立学校振興・共済事業団の清家篤理事長)。

 さて、一部報道についてですが、18日の素案では、奨学金返済の「出世払い」について引き続き検討するなどにとどめています。5月までに具体策を決め、6月の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を経て、夏の参院選で可否を問う形になりそうです。

 素案では、デジタルや人工知能(AI)、グリーン(脱炭素化)など成長分野の高度人材を育成するため、現在約35%にとどまっている理系分野の学生割合を経済協力開発機構(OECD)諸国で最も高い水準である5割程度を目指すなど、学部・学科構成を大胆に見直して再編を促進する「大学の構造転換」を打ち出しています。教員1人当たりの学生数(ST比)を改善する一方、18歳人口の急減期を見据えて「大学全体としての定員規模の抑制を図る仕組みを導入する」としています。提言を契機に、大学の再編統合や学部改編に弾みがつくかもしれません。
 
 初中教育に関しては、高校普通科改革等による文理横断的・探究的な教育の推進、イノベーティブ(革新的)なグローバル人材育成や文理横断型リベラルアーツ教育等推進のカリキュラム開発で「早期の学習コース分け」からの転換を図るとしています。これも、データサイエンス分野や理工系を増やす大学改革に対応したものと言えるでしょう。

 STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育の強化や文理横断のため、大学入試でも、人文・社会科学系で理系科目を、自然科学系で文系科目を出題するなどの見直しも盛り込んでいます。「高校段階における早期の文理分断からの脱却」に向けても、高校のカリキュラムやコース編成はもちろん、進路指導にも変更が迫られそうです。

 専門高校については、時代の変化に対応した専門教育の強化を求めるだけでなく、「高専への改編も視野に入れた専門高校の充実」も例示しています。

 ただ、専門高校の高専化も含め、どこまで同会議に実効性があるのかは、現段階では不透明です。前身の実行会議は、目覚ましいスタートダッシュを見せながら、実質的に半年ほどで尻すぼみになりました。岸田首相には、モットーである「聞く耳」を発揮して、生徒が安心して上級学校や社会で学べるような政策を打ち出してほしいものです。そうなってこそ高校側も、改革に応える意義があるというものでしょう。


<インタビュー・寄稿>の記事をもっとみる

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/