教えて!「大学入試で『探究』は評価されるの?」
高校では新入生から、新しい学習指導要領が全面実施になりました。既に先行実施となっている「総合的な探究の時間」には、進学校も含めて手応えを感じている高校が少なくありません。しかし2025年度の新課程入試を考えると、不安は拭えません。新設の探究科目も含めて、大学側は評価してくれるのでしょうか。
象徴的なイベントが、先ごろ開催されました。大学入試センターが主催する「全国大学入学者選抜研究連絡協議会(入研協)」の第17回大会(5月26~28日、オンライン)です。初日に行われた全体会1のテーマは「変貌する高校教育現場:大学はどう応えるか」で、2日目の全体会2はズバリ「探究活動を入試でどのように評価するか」。高大接続改革の二つの側面のうち、前者で「教育接続」を、後者で「入試接続」を考えようという趣向です。
全体会1では、高校側から宮城県仙台第三高校、岡山県立和気閑谷高校、三重県立宇治山田商業高校の3校と、大学側から東京工業大学が、事例を発表しました。本誌の読者なら、高校側の事例はご存じの方も少なくないかもしれません。
東工大は、学部から大学院まで一貫して行うリベラルアーツ(教養教育)が特長です。ジャーナリストの池上彰氏(現特命教授)と一緒にリベラルアーツ研究教育院(ILA)を立ち上げた前所長の上田紀行教授(文化人類学)は、設立動機について「入って来る学生の『生きる意味』が年々貧しくなってきていた」と、自著のタイトル(岩波新書)に引き付けて説明しました。2000年代に新自由主義が強まると「受験科目以外は無駄」という風潮が広がり、入学後も評価を気にするだけでなく、点数につながらないものには取り組もうとしなくなっていったというのです。
3校の発表を聞いて「感銘を受けた」という上田教授は、日本の中等教育が偏差値の高い大学に少しでも多くの生徒を入れる「道具」になっていることが「どれだけ日本の教育を阻害してきたことか」と嘆きました。
とはいえ、まだ「入試接続」が広がっているとは言えないのも現実でしょう。ただし、全体会2で4大学の発表を聞くと、さまざまな摸索が行われていることが分かります。
桜美林大学では。高校や生徒に探究学習の機会を提供する「ディスカバ!」プロジェクトを展開しています。21年度は32校に39プログラムの出張授業を提供するとともに、課外101プログラムなどを実施しました。入試には直結しませんが、高校側の探究への「熱気」が大学入試につながるんだ、という意思表明を発信する狙いがあるといいます。それに応える形で、22年度には総合型選抜の1方式として探究入試「Spiral」を始めています。
一方、奈良女子大学は「総合型選抜 探究力入試『Q』」(Q入試)、島根大学は「へるん入試」(総合型選抜Ⅰ)、高崎商科大学商学部経営学科は「探究・ブレインストーミング入試」(ブレスト入試、総合型選抜C方式)の事例を発表しました。このうち奈良女では、発表した高岡尚子教授が所属する文学部の場合、入学後の研究と関連付けて「ことばと人間」「社会と人間」「地球と環境」「なら」の四つを探究テーマに設定。合格後は入学前指導を行うとともに、入学後は1年次の前期に「探究入門」を開講して2年次以降の探究につなげるといいます。このような取り組みの成果が大学関係者に共有されていけば、高校までに培った探究力を積極的に評価しようとする動きも広がるかもしれません。
全体会1の司会を務めた本郷真紹(まさつぐ)立命館大学教授は以前、京都市教育長から「ドラスチックに高校現場の教育スタイルが変わろうとしているのに、大学が従来通りの教育の形を続けていては、愛想を尽かされる」と指摘を受けたことを紹介しました。心ある大学関係者は、大学教育の問題としても高校教育の「変貌」を注視しているのです。
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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/