教えて!「デジタル教科書で高校はどうなる?」
中央教育審議会の「教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループ(WG)」が8月25日、2024年度からデジタル教科書を段階的に導入すべきだとの中間報告(論点整理案)を固めました。まずは小中学校が対象のようですが、「GIGAスクール構想」でも端末整備の対象外だった高校は、どうなるのでしょうか。確かにデジタル化の進展で、授業はずいぶん変わるという実感はあるのですが…。
中教審が24年度を「デジタル教科書を本格的に導入する最初の契機」と位置付けているのは、新学習指導要領に基づく小学校教科書の改訂年度に当たることからです。WGは、まずは小学校5年生から中学校3年生までの英語で導入し、「その次」は算数・数学とする方向を打ち出しました。
ただし無償給与となる紙の教科書は引き続き発行され、デジタル教科書は有償のままです。小中では21年度から実証事業という形で付属教材を含めて1教科分が国から提供されていますが、今後どうなるかは財政当局との折衝次第です。
しかもデジタル教科書は、引き続き「紙の教科書の内容を基本としたシンプルで軽いもの」にすべきだとしています。これには、音声や動画を対象にすると検定が難しくなるだけでなく、ダウンロードに負荷がかかりすぎるという事情もあります。
重要なのは、デジタル教科書を単体で考えるのではなく、デジタル教材や学習支援ソフトウェアと接続させることで、学びが充実すると位置付けていることです。WGの正式名称「教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループ」が、それを象徴しています。
ただ、教材やソフトとセットになれば、それだけ費用負担も増大します。デジタル教科書を無償給与の対象にするかどうかも含め、予算確保や教育費負担の論議は今後の課題です。
さて、もともと教科書が無償給与の対象外である高校は、どうなるのでしょうか。中間報告では「小学1年生と高校生のデジタル教科書の使い方は異なるものであり、学年ごとの活用や導入方法の議論が必要」としているだけです。まずは義務制で手いっぱい、というのが現状のようです。
ただし高校でも、デジタル教科書の発行は進んでいます。新指導要領が全面実施に入った22年度は、物理・化学・生物の基礎科目や保健体育、情報で全種類にデジタル教科書が発行されている他、現代の国語は17種類中13種類、地理総合は6種類中5種類、公共は12種類中11種類、数学Ⅰは17種類中16種類、英語コミュニケーションⅠは24種類中21種類などとなっています。デジタル教科書・教材・ソフトを活用できる条件は、高校でもそろいつつあります。
ところで国はなぜ、デジタル教科書の普及を推進しているのでしょうか。一つは、デジタルの活用で自動的に得られる「教育データ」が、学習者個人にとっても、学校や教育行政の側にとっても、さまざまに利活用できる可能性を秘めていることがあります。さらに「教育DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタルによる変革)」を進めることで、授業そのものを革新しようという狙いもあります。
実は文部科学省には、教育DXを、27年以降と目される「次期」指導要領の改訂はもとより、教育諸条件の抜本的改善につなげたい考えがあります。WGは「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」の下に設置されているものですが、同部会は「学校教育の在り方特別部会」と略称されています。学校教育そのものを丸ごと問い直す契機にしたい、という考えが、そこにはあります。事はデジタル教科書の是非にとどまらず、高校も決して動向に無関心ではいられません。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/