教えて!「高校の発達障害、どう受け止める?」
文部科学省が10年ぶりに、通常学級で発達障害の可能性がある児童生徒を調査しました。小中学生では8.8%と前回調査に比べ2ポイント以上増えたばかりなく、高校生では2.2%という実態も初めて明らかになりました。どう捉えればいいのでしょうか。
正式な調査名は「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」といいます。過去2回は公立小中学校のみ抽出し、2002年は小中学生の6.3%、2012年は6.5%と推計されていました。最新の調査は2022年1~2月に行われ、「学習面または行動面で著しい困難を示す」児童生徒は小学校で10.4%、中学校で5.6%、高校で2.2%と推計されています。
まず注意したいのは「特別な教育的支援を必要とする児童生徒」という表現です。発達障害の診断が医師から出ているとは限りません。質問項目は学習障害(LD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などを診断する調査票に準じていますが、あくまで回答する教員の判断に委ねています。障害の有無というより、教室での「困り事」に着目しているからです。
発達障害にはグレーゾーンもあり、診断書が出なかったからといって、何も困っていないとは限りません。むしろ通常学級にも知的遅れのない発達障害が存在していることを前提に、どうやって個々の困り事を解消するための配慮や特別な指導を行うかを考えるための調査なのです。
今や高校でも、何らかの障害を抱える生徒を多く受け入れているところが少なくないでしょう。地域による違いはあるものの、特別支援学校の分教室を設けたり、特別支援学校と隣接して連携を深めたりしている事例も増えてきています。2018年度からは高校でも、「通級による指導」が制度化されています。
ただし文科省の2020年度調査によると、全国の高校で通級が必要と判断した生徒約2400人のうち、実際に通級指導が行われたのは約1300人と、半数強にすぎません。また通級の形態によっては、他校通級を利用しにくかったり、巡回指導がなかなか回ってこなかったりする地域もあるでしょう。教育委員会などが手厚い体制を整備することも求められます。
改めて注意しておきたいのは、発達障害ないしは「障害」そのものの捉え方です。特別支援学校の経験がある先生には釈迦(しゃか)に説法でしょうが、障害の捉え方には医学モデルと社会モデルがあります。障害を個人の心身機能によるものと捉えるのが、医学モデルです。一方、社会モデルでは、障害や困難は個人と社会との相互作用によってもたらされる、という考え方に立ちます。昔の「特殊教育」が2007年度から「特別支援教育」に衣替えしたのも、発達障害を対象に加えたことはもとより、教委や学校側にも可能な範囲での「合理的配慮」を求めるためです。
発達障害は「発達の凸凹」とも言われるように、凹もあれば凸もあります。近年、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」の存在が注目され、「ギフテッド(天賦の才能)」と呼ばれることもありますが、特異な才能と困難を併せ持つ2E(twice-exceptional)も少なくありません。むしろ進学校などでは、成績が良いだけに生活面の困り事への対応がなされてこなかった面も否めないでしょう。
中央教育審議会では、現在審議中の次期教育振興基本計画(2023~27年度)に「多様性、公平・公正、包摂性」(Diversity,Equity and Inclution=DE&I)を位置付けようとしています。共生社会を実現するためにも、多様な生徒を誰一人取り残さず可能性を引き出す学校の役割が今後ますます重要になります。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/