教えて!「次期教育振興計画の『ウェルビーイング』って?」

 2023年度から始まる次期教育振興基本計画について、中央教育審議会での審議が大詰めを迎えています。諮問理由にあった「ウェルビーイング」(個人的にも社会的にも人々が心身ともに幸福な状態)は、その後どうなったのでしょうか。学校現場に影響はあるのでしょうか。

「次期教育振興計画の『ウェルビーイング』って?」

 教育振興基本計画は08年度以来おおむね5年間を計画期間として策定されており、第3期計画(18~22年度)が間もなく終了します。それに備えて22年2月、末松信介文部科学相(当時)が中教審に次期計画の策定を諮問すると、中教審では翌月に総会直属の教育振興基本計画部会(部会長=渡邉光一郎・中教審会長)を発足させました。2月24日に開催される部会の第14回会合で答申案を了承し、3月の総会で永岡桂子文科相に答申した後、閣議決定に掛けられる見通しです。

 とはいえ内容は、既に大筋で合意されています。そこでは次期計画のコンセプトとして「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」とともに「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を掲げ、▽身体的・精神的・社会的に良い状態にあることをいい、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福を含む概念 ▽多様な個人がそれぞれ幸せや生きがいを感じるともに、個人を取り巻く場や地域、社会が幸せや豊かさを感じられる良い状態にあることも含む包括的な概念――だと整理しています。

 もともとウェルビーイングは1947年に採択された世界保健機関(WHO)憲章の前文に健康の定義として登場したもので、持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」の原文も“GOOD HEALTH AND WELL-BEING”です。
日本の教育界で最初に注目されたのは、15年の「生徒の学習到達度調査」(PISA)に関して経済協力開発機構(OECD)がまとめた報告書『生徒のwell-being(生徒の「健やかさ・幸福度」)』(国立教育政策研究所訳)でした。その後OECDは、世界に向けて新しい時代にふさわしい教育の在り方を提唱する「Education2030プロジェクト」の成果として打ち出した「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)」の 中で、ウェルビーイングを学習者が目指す理想の目的地とするイメージを示しました。中教審への諮問も、これを受けたものです。

 渡邉部会長は1月の部会で「SDGsも最初、定着するのかなと思っていたが、今や学校教育でほとんどの子どもたちが普通に使っている。ウェルビーイングもSDGsの先にあるイメージなので、次の学習指導要領の検討には必ずSDGsと同じように入って来る」と発言しています。国の計画を参酌して策定される地方自治体の振興計画でも当然、重視されていくことでしょう。

 高校では、グランドデザインやスクール・ミッション/ポリシーの中に位置付けることが求められていくと予想されます。その際、生徒のウェルビーイング実現は学びの在り方にとどまらず、社会問題となっている「ブラック校則」の解消も含め、学校を生徒にとってウェルビーイングを保障する場とするよう要請が強まることは想像に難くありません。

 何より答申には、「教師のウェルビーイング」も盛り込まれることが確実になっています。そこでは、職員や支援人材なども含めて「職場の心理的安全性が保たれ、労働環境などが良い状態であること」が求められるとしています。

 ただし「学校の働き方改革」は、今春にも公表される22年度教員勤務実態調査の速報値を基に別途、本格的な検討を始めることにしているため、次期計画ではどう改革を進めるか、必ずしも明確にしていません。今後とも国の動向を注視していく必要があるでしょう。


【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/