教えて! 『いじめ防止対策』はどうなってるの?

 文部科学省が9日、今年度初めての「いじめ防止対策協議会」 を開催しました。これに先立つ7月には、国立大学の附属学校で発生した「いじめ重大事態」が文部科学省に報告されていなかったことが発覚しました。発生件数の推移を見ても、依然として深刻ないじめはなくなっていないようです。いじめ防止対策は、どうなっているのでしょうか。  

 現在のいじめ防止対策は、大津市の中学生自殺事件をきっかけに13年6月、議員立法で成立した「いじめ防止対策推進法」 (同年9月施行)に基づいています。同法は、いじめを「対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」などと定義した上で、国や自治体、学校に「いじめ防止対策基本方針」の策定を求めました。

 さらに、いじめにより①生命、心身、財産に重大な被害が生じた疑い ②相当期間、欠席を余儀なくされている疑い――があると認められる時を「重大事態」とし、発生した際には速やかに調査を行うとともに、自治体の長(公立学校)や文部科学相(国立学校)、都道府県知事(私立学校)に報告することになっています。

 同法の施行以降、いじめの認知件数は小中学校で急増し、高校でも漸増傾向にあり、21年度間は全校種を合わせて約61万5千件に上っています。ただし「認知」件数が増えること自体は悪くありません。早期に発見できれば、深刻化する前に対処できるからです。

 問題なのは、重大事態です。15年度以降も増え続け、20年度は新型コロナウイルス禍もあっていったん急減したものの、21年度は705件と、19年度の723件に匹敵する多さです。自殺に至るような重大事態を防ぐためにできた法律のはずですが、各自治体・学校でのいじめ「対策」は進んでも「防止」には必ずしも至っていないことがうかがえます。

 同法の付則では、施行後3年を目途として、施行状況等を勘案して検討を加え、その結果に基づいて「必要な措置」を講じるよう求めています。一般的には、法改正も視野に入れた規定です。

 文科省は毎年「いじめ防止対策協議会」を開催しており、施行3年目の16年11月には「議論のとりまとめ」も行っています。17年3月には重大事態の調査ガイドラインも策定しましたが、発生は後を絶たず、18年3月には総務省から法などに基づく措置の周知徹底などを勧告されています。

 実際に重大事態を防げないでいるとしたら、学校現場の責任だけでなく、法自体に問題があるとも思えます。しかし同法は、議員立法で成立したものです。省庁が原案を作って閣議決定により国会に提出する「閣法」と違って、改正も議員立法に任されるのが実態です。総務省勧告をきっかけに超党派の勉強会で改正の機運が盛り上がったものの、法案を巡って紛糾し、合意には至りませんでした。

 重大事態が発生すれば、教育委員会や学校は調査などに追われ、かえって現場の対策に注力する余裕がなくなっているという指摘もあります。重大事態にしっかり対応するためにも体制整備が必要ですし、何より同法にも規定された「いじめの未然防止」の観点が不可欠でしょう。重大事態が起こってからでは、遅いのです。

 昨年12月には、生徒指導提要も改訂されました。そこでは生徒指導の「2軸3類4層構造」が示されたのが特色です。いじめに関しては、初層の「発達支持的生徒指導」で普段から人権教育・市民性教育に基づく働き掛けを行うことが期待されています。いじめを生み出しにくい学校・学級をつくるためにも、予算措置を含めた条件整備が急務です。


【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/