教えて!大学教育の「質」論議はどうなる?
義務教育のような授業が行われている大学もある――。財務省の、こんな指摘が話題になっています。高校としても生徒にしっかりとした学力をつけさせて送り出すのが理想ですが、まずは進路希望を実現するのが最優先です。大学側にも受け入れた以上、教育の責任があるはずです。この問題を、どう考えればいいのでしょうか。

財務省の指摘は15日、財政制度等審議会(財政審、財務相の諮問機関)の財政制度分科会で示されました。同分科会は次年度予算編成に向けた建議のための議論を行っており、今回は各論の一つとして私立大学の問題を取り上げました。
そこで着目したのが、定員割れ私大です。「定員充足率だけで教育の質を判断できるわけではない」と断りながらも、中には「義務・中等教育で学ぶような内容の授業が行われている大学」も見受けられると指摘。「社会で活躍できる優れた人材を育成できるよう、教育の質の確保・向上が必要」だとしました。
その上で、私大の約6割が定員割れしていることから、学生数の実態に応じて私学助成額を増減させることで、規模の適正化を早急に進める必要があるとしています。近年増えている私大の公立化にも「定員割れ大学を安易に公費で救済する結果となっている」とクギを刺します。
確かに現役の進学者数を志願者数で割った「収容率」は2024年度、大学で93.0%、短大で98.6%に上っており、実質どこかの大学に入れる「大学全入時代」が進行しています。大学側も経営上できるだけ定員を埋めねばならず、結果的に高校以下の内容を学び直させる「補習教育」が必須になっているところが少なくありません。
ただ裏読みをすると、財務省も中央教育審議会が大学の再編・統合を促す答申を2月に出したことを踏まえているはずです。再編・統合を自然に任せず、加速させたいという意図が透けて見えます。
ここで、先の中教審答申のタイトルが「我が国の『知の総和』向上の未来像」だったことに注目しましょう。日本は既に人口減少局面が続いており、大都市圏にすら「消滅可能性自治体」が広がっています。労働力人口の減少が避けられないなら、一人ひとりが能力を発揮して生産性を上げなければ、社会は持続できません。そこで中教審は、数×能力=「知の総和」を向上させることを打ち出しました。数が減る分、能力を相当に引き上げる必要が出てくるわけです。
そこで答申が提言したのが、どんな地域でも高等教育へのアクセス機会を確保し、活性化の核にしてもらおうという構想です。カギを握るのは、自治体などを交えた大学間の連携です。既に「地域連携プラットフォーム」の仕組みがありますが、これを「地域構想推進プラットフォーム(仮称)」へ、同様に大学等連携推進法人制度を「地域研究教育連携推進機構(仮称)」へと、それぞれ発展させることを提言しています。
折しも中教審では、学習指導要領の改訂が審議されています。義務制で不登校などの児童生徒に、柔軟な教育課程を編成できるようにする方向です。高校に進学する生徒も、ますます学力が多様化することでしょう。
必要なのは、各学校段階で責任を押し付け合うのではなく、一人ひとりの子どもに、どこでどういう資質・能力を付けさせ、最終的に社会で活躍してもらうかを考えることです。高大接続にとどまらず、幼稚園から大学までを展望した教育の在り方を真剣に考える時が来ています。既存のプラットフォームには教育委員会が参画している例もあり、高校も無関係ではありません。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/