教えて! PISAの好結果で高校教育の課題は?

 経済協力開発機構(OECD)が2022年に実施した「生徒の学習到達度調査」(PISA)の結果が5日、公表されました。21年の実施予定が、新型コロナウイルス禍で1年延期されています。日本は3分野すべてで世界トップレベルとなり、「レジリエントな(回復力のある)」4カ国の一つにも認定されました。調査対象は15歳で、日本では高校1年生です。義務教育段階での好結果を踏まえた、高校教育の課題は何でしょうか。

 

00年から3年ごとに実施されているPISAは、参加する国・地域が年々増えています。一方、前回(18年調査)3分野で1位を独占した中国(北京・上海・江蘇・浙江)は、休校措置が長引いたため参加を見送りました。そもそも国際学力コンテストではないのですから、統計的に有意差のない1点刻みで順位を競っても意味がありません。

それでも、3分野とも加盟37カ国の1位グループを占めたのは事実です。OECDは休校期間が他国に比べ短かったこと(質問紙調査で「3カ月以上休校した」が加盟国平均50.3%に対して日本は15.5%)が影響した可能性を指摘しており、これに加えて文部科学省は ▽現行学習指導要領を踏まえた授業改善が進んだこと ▽ICT(情報通信技術)環境の整備が進み、使用に慣れたこと――など複合的な要因が働いたとみています。

PISAの得点は、中心分野として最初に詳細調査が行われた年(読解力=00年、数学的リテラシー=03年、科学的リテラシー=06年)の加盟国平均が500点になるよう調整されており、経年比較が可能です。OECDによると加盟国平均はコロナ前から下降傾向にありましたが、日本は一貫して高い結果を維持する「平坦型」(長期トレンドに統計的有意差なし)だと評価されています。そんな「強靭(きょうじん)」な教育制度が、コロナ禍でも力を発揮したというわけです。

普段から情意面も含めて生徒に深く関わり、コロナ禍では1日も早い学校再開とその後の学力保障に取り組んだという「先生方の努力のたまもの」(過去2度の指導要領改訂を担当し、最初の全国一斉休校要請時には財務課長だった合田哲雄・文化庁次長)であったことは、自負していいでしょう。

何より忘れてはならないのは、そもそもPISAが「知識や技能を、実生活のさまざまな場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測ることを目的とした調査」(文科省資料)であることです。その意味で、結果を「学力」と訳すことは必ずしも正確ではありません。むしろ現行指導要領が示す「資質・能力」、総じて言えば「生きる力」の方が近いでしょう。そう考えると、義務教育段階で培った児童生徒の資質・能力を更に伸ばし、成人として社会に送り出す高校教育の役割も、また違った捉え方ができそうです。

PISAの結果が公表された翌日、東京大学の公共政策大学院ウェルビーイング研究ユニット(代表・鈴木 寛教授)がアジアを対象とした国際シンポジウムを開催しました。宮本久也・全国高等学校長協会(全高長)事務局長(元会長、元東京都立八王子東高校統括校長)も登壇。自身も委員として携わった高大接続改革や指導要領改訂の経緯を振り返りながら、高校でも一層の授業改善と探究学習に取り組む必要性を強調しました。

今回のPISAで日本は平均点だけでなく、6段階の習熟度別で見ても全体として好結果を示しています。高校間には入試で振り分けられた学力差があるとはいえ、各高校がスクール・ミッション/ポリシーを実質化し、在校する生徒を誰一人取り残さない教育を目指すべきでしょう。そのための条件整備も、少子高齢化が深刻化する日本社会への「先行投資」として期待したいものです。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/