教えて! 探究の参考にもなる『国際バカロレア』とは?

 2023年度もあと約2カ月、「総合的な探究の時間」のまとめや発表の追い込みに掛かっている時期です。大学入試改革で主体性・多様性・協働性が評価されるということもあって「総合的な学習の時間」時代に比べ取り組みが急速に広がった感がありますが、いまだに実践上の悩みは尽きません。文部科学省は国際バカロレア(IB)を参考にするよう勧めているということですが、どんな点が参考になるのでしょうか。

 文科省はホームページで「国際バカロレアの趣旨を踏まえた教育の推進」と銘打って、IBのカリキュラムが思考力・判断力・表現力等をはじめ学習指導要領が目指す「生きる力」の育成や、課題発見・解決能力、論理的思考力、コミュニケーション能力などの確実な修得に資するとして、調査研究を通して日本の教育の改善に生かしたい意向を示しています。必ずしもIB認定を目指すだけではないことが分かります。

 総合探究に関連して参考になりそうなのは、何といってもDP(16~19歳) の「知の理論(TOK)」でしょう。文科省は2012年8月にまとめた調査研究協力者会議の報告書で 「学際的な観点から個々の学問分野の知識体系を吟味して、理性的な考え方と客観的精神を養うもの」だとしています。

 いよいよ高校でも第3学年まで全面実施となる新指導要領では、周知の通り各教科・科目でも探究活動が求められています。この点でも、IBが参考になります。先の報告書によると、IBは①探究型学習 ②プロジェクト型学習 ③協同型学習――という生徒の経験や既存概念に基づく学習活動を中心にして、授業が組み立てられています。

 例えば理科に当たる「実験科学」では生物、化学、物理、環境システム、デザイン技術の選択制としています。日本のように各分野の学習内容を網羅的に学ばせようとするのではなく、科学的な概念をきちんと自らのものとすれば、学んでいない他の分野にも自学自習で応用できるようになる、との考えからです。新指導要領の「見方・考え方」を徹底したものと言えるでしょう。

 何より10ある「IBの学習者像」の 筆頭に「探究する人」が挙げられています。これもスクール・ミッション/ポリシーに基づき、総合的な探究の時間を核としたカリキュラム・マネジメント(カリマネ)と授業改善が求められている日本の高校教育にとって、大いに参考となるでしょう。

 今月初めに行われた「理科カリキュラムを考える会」冬季シンポジウムの講演でカメダ・クインシー玉川大学大学院准教授は、IBはカリキュラムではなくフレームワークを提供するものだと説明。パネルディスカッションで同会の滝川洋二理事長は、教師が学び続ける環境づくりの重要性を指摘しました。鮫島朋美・東京学芸大学附属国際中等教育学校教諭は、IBのカリキュラムは「共同設計が原則」だと紹介していました。

 このようにIBの教育は、総合探究にとどまらず日本の高校教育のあらゆる面で参考になる可能性を秘めていると言えそうです。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/