教えて! 『年内入試』主流時代の進学指導とは?
いよいよ2023年度も、あと数日で終わりです。進学希望の卒業生は浪人を含め、ほぼ行き先が決まりました。ところで最近、総合型選抜や学校推薦型選抜の「年内入試」で早々に進学先が決まる生徒が増え、年明け後の指導が年々大変になっていると実感します。大学側にも配慮を求めたいところですが、今後の進学指導や高大接続はどうなるのでしょうか。
1年前の23年度大学入試で、象徴的なことがありました。文部科学省のまとめで、全入学者に占める年内入試の割合が50.7%(前年度比1.0ポイント増)と半数を超えたのです。 「年内」入試といっても年明けの大学入学共通テストを課す場合がありますから、必ずしも前年のうちに合格が確定するとは限りません。ただ別の委託調査によると、23年度の全選抜方法に占める割合は、一般選抜42.3%、総合型選抜17.8%、学校推薦型選抜26.4%などとなっており、総合型・学校推薦型選抜の合計が一般選抜を上回っています。共通テストを課しているのは国立大学こそ総合型で23.2%、学校推薦型で37.5%(このうち共通テストのみは0.8%、他は個別選抜との合算)ありますが、私立大学ではいずれも0.2%にすぎません。
今後も年内入試は、ますます拡大していくことでしょう。主な大学入学年齢である18歳人口の減少で、学生獲得競争がますます激しくなっているからです。文科省のまとめでも23年度、私立大学で6万9031人の欠員が出ています。少しでも早く入学者を確保したいと考えるのは、無理からぬところです。 国立大学も地方を中心に倍率がじわじわ低下している学部が少なくなく、必ずしも安泰ではありません。もともと国立大学協会は総合型・学校推薦型の占める割合を入学定員の30%に引き上げる目標を掲げていましたから、実態はむしろ遅いぐらいです。
中央教育審議会は昨年9月、「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について」という諮問を受け、本格的な検討を始めたところです。大学の再編・統合、さらには「撤退」は避けられなくなっています。 一方で中教審は、単なる大学の自然淘汰(とうた)を狙っているわけではありません。地域振興のためにも高等教育にアクセスできる機会を全国どこでも一定確保し、日本全体で「知の総和」(副会長で大学分科会長の永田恭介・筑波大学長)を維持したい考えです。そうなると、既存の高等教育機関同士が国公私立や学校種別の枠さえ超えて連携・協働する必要が出てきます。既に18年11月の中教審答申に基づき、設置者の枠組みを超えた連携や機能分担を促進する「大学等連携推進法人」制度が創設され、山梨、四国地域、熊本などで6法人が認定されています。今後そうした動きは、ますます加速することでしょう。
そうなると、いつまでも高大接続は「入試接続」だけに依存しているわけにはいきません。「大学と受験生とのマッチング」を打ち出したのは08年12月の中教審答申で、むしろ遅きに失した感さえあります。 今こそスクール・ミッション/ポリシーに沿った生徒の資質・能力育成と進路指導に本気で取り組み、「教育接続」を図らなければならない時でしょう。いつまでも「受験は団体戦」と言っていたり、全員に共通テストを受けさせる方針を取ったりしていては、短期的に進学実績は上がったとしても、進学後、さらには社会に出てから大変な思いをするのは生徒たちだ――というのは言い過ぎでしょうか。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/