教えて!中教審の教師確保策をどう受け止めればいい?

 教師の人材確保策を検討してきた中央教育審議会の特別部会が13日、審議まとめを正式決定しました。「定額働かせ放題」と批判されてきた教員給与特別措置法(給特法)は維持した上で、給与額の4%を上乗せする教職調整額を10%以上にすることを提案したといいます。正直「給料は増やさなくてもいいから、仕事を楽にしてくれよ」と思わないでもありません。どう受け止めればいいのでしょうか。

 中教審の「質の高い教師の確保特別部会」は今回、▽学校の働き方改革の更なる加速化▽教師の処遇改善 ▽学校の指導・運営体制の充実――を一体的・総合的に推進する必要性を提言したとしています。問題は、本当に「一体的・総合的」なものになっているかどうかです。
 教職調整額の引き上げに関しては、教育職員人材確保特別措置法(人確法)により1980年には一般行政職より約7%高くなった優遇分が、現在ではごくわずか(2018~22年度の平均で0.35%)にまで目減りしており、これを回復させるために必要だ、と説明しています。つまり「働き方改革」とは全く別の論理です。
勤務時間外の業務を巡っては「教師の職務等の特殊性を踏まえると……正規の勤務時間の内外を問わず包括的に評価すべき」だとして、給特法の意義を再確認しました。実際、委員からは給特法を廃止して残業代(時間外勤務手当)に代えるべきだという意見は出ませんでした。

 ところで教職調整額の4%というのは、1966年度の勤務状況調査で時間外勤務が平均で月8時間程度だったことに基づくものです。これを仮に10%へ引き上げるとすると、2.5倍になります。
肝心の働き方改革では、将来的に時間外在校等時間を20時間程度に縮減することを目指すと打ち出しました。8時間の2.5倍は20時間で、確かに計算は合います。しかし22年度勤務実態調査では小学校約41時間、中学校約58時間でしたから、6年間で約3割減ったと言われても、まだまだ遠い道のりに思えます。

 では、どう働き方改革を進めていくかというと、取り組みには差があるため「全ての教育委員会が総合的に取り組む段階」から「解像度を上げて、具体的な取組に向けた支援と助言を行っていく段階」に移行すべきだとしています。要するに、まだ頑張りが足りない教委や学校がある……ということでしょうか。
 具体的な提案といえば、終業から始業までに11時間程度の休息時間を確保する「勤務間インターバル」が必要だとしたことです。ただし前回の改革論議で「学校の働き方改革特別部会」の部会長を務めていた小川正人・東京大学名誉教授は、11時間では月100時間を容認することになるため、12~13時間に設定する必要があると指摘しています(教育開発研究所『教職研修』5月号特集1)。

 そんな中で注目されるのは、高校に関して ▽総合的な探究の時間を教育課程の基軸に据えた学びの充実が求められており、学校内外のコーディネートを担う教職員の配置が必要 ▽普通科改革等の実施状況等も見据えた上で、より専門的な検討を行う必要がある――と、具体的な言及があったことです。今後に関しても「学校教育の質の向上に向けた、次期学習指導要領における新たな学びと標準授業時数の在り方等」の検討を文科省に求めています。今年中に諮問が見込まれる指導要領の次期改訂と連動した、抜本的な教職員定数の改善論議が待たれます。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/