教えて!指導要領の改訂に向けた『骨子案』とは?

 文部科学省の有識者検討会が、現行の学習指導要領を検証する論点整理の骨子案を協議したといいます。教育課程を柔軟化し、現場の過度な負担を防ぐための在り方なども盛り込まれる見通しだそうですが、今後の改訂にも影響するのでしょうか。

 正式名称は「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会 」といい、2022年12月に発足。14回目の会合となった19日、初めて骨子案が示されました。といっても六つの柱と小項目から成る「目次」と、総論部分に当たる最初の柱「これからの社会像とこれまでの学習指導要領の趣旨の実現状況」に限って箇条書きで具体的な中身を示すにとどまっています。

 二つ目以下の柱は▽これからの社会像や現状の課題を踏まえた資質・能力 ▽各教科等の目標・内容、方法、評価 ▽多様な個性や特性、背景を有する子供たちを包摂する柔軟な教育課程 ▽学習指導要領の趣旨の着実な実現を担保する方策や条件整備 ▽学習指導要領の趣旨の実現に向けた政策形成・展開――となっており、詳細な内容は今後の会合で明らかになっていくことでしょう。
 ただ柱だけ見ても、条件整備や政策にまで言及しようとしていることが注目されます。今までの指導要領は、告示されてから全面実施までに必要な概算要求や周知徹底を行ってきたため、足りない部分は学校現場の努力に任されてきた側面も否めません。
 検討会は、年内にも中央教育審議会に諮問されるとみられる次期改訂の準備作業を実質的に担っています。条件整備の柱には、以前の記事でも紹介した「教科書・教材の在り方」も小項目として明記されました。
 最初の柱について、注目点を見てみましょう。まず、前回改訂時に描いた30年ごろの社会像(現行指導要領の実施期間)が「想像以上のスピードで現実化」しているとの認識を示しながらも、議論では「前文や総則のコンセプトは優れており、現在においてもおおむね妥当との意見」が強かったことを示しています。

 ただし「趣旨の浸透は道半ば」で、それも曖昧な用語や多義的な用語、誤解を招く用語により指導要領の記載が分かりにくいためだと指摘。さらに、文科省から都道府県教委、市町村教委を経て学校に至る「固定的経路での情報伝達」や指導資料を中心とした情報発信が浸透の妨げになっているとみています。
 これに関連して、最後の柱である政策形成・展開では小項目として「学習指導要領・解説等の形態」を挙げています。検討会では、文章を中心とした指導要領や解説の記述方法はもとより、目標や内容の示し方も見直すべきだとの意見も強まっていました。四つ目の柱にある「柔軟な教育課程」と併せて、今後どのような具体案が出されるか注目されます。
 一つ目の柱に戻ると、課題として「入試が必ずしも十分に変わっていない中で、授業改善の方向性と入試の出題傾向にズレが生じ、結果として教科書の内容も授業も変わりづらいのではないか」とあるのも見逃せません。

 現行指導要領と並行して審議された高大接続改革は、高校教育・大学教育・大学入学者選抜を「三位一体」で改革することを目指しましたが、結果的に大学入学共通テストをはじめとした大学「入試」改革に偏重したきらいがあります。それを今回は、授業改善や教科書の在り方も含めて問題にしているのです。
 中教審への諮問次第では、改めて高大接続改革が議論される可能性も捨て切れません。高校側も、最後は受験対策に特化するような教育課程編成の風潮を改める必要性に迫られるかもしれない……というのは、先読みのし過ぎでしょうか。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/