教えて!国を越えて求められる教員の資質とは?
8月にあった中央教育審議会の答申(「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について)では教職給与特別法(給特法)の扱いに関心が集まりましたが、直前になって答申のサブタイトルに「学びの専門職」が入ったというのも気になります。これからの教師に、何が求められているのでしょうか。
国内政策の前に、国際的な立場から考えていきましょう。今月13日、東北大学で「第23回OECD/Japanセミナー」が開催されました(文部科学省と共催、オンラインでも配信)。テーマは「ティーチング・コンパス~新たな時代における教師の在り方~」です。
経済協力開発機構(OECD)は2015年以来、ますます不確実で複雑化する世界に生きる子どもたちに必要なコンピテンシー(資質・能力)は何かを再定義する「Education2030プロジェクト」を実施しており、その成果として「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)」を提案しています。
ラーニング・コンパスは、知識・スキル・態度・価値という四つの針(コンピテンシー)のある羅針盤を頼りにしながら、学習者が「ウェルビーイング(個人的にも社会的にも人々が心身ともに幸福な状態)」という山(目的)に向かって歩んでいくというイメージを描いています。その際、「エージェンシー(変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力)」を重視しています。また、周囲の大人による「共同エージェンシー」に期待をかけており、とりわけ「教師エージェンシー」が重要だと位置付けています。
現在、ラーニング・コンパスに対応する教師の具体的役割を定義する「ティーチング・コンパス」を創ろうと国際会合を重ねています。実は今回のセミナーも、会合が日本で開催されるのに合わせてテーマを設定したものです。
セミナーでビデオ講演したアンドレアス・シュライヒャーOECD教育・スキル局長は「教育の質は、教師の質を超えられない」という持論を紹介しながら、教師の共同エージェンシーとして、生徒はもちろん教師同士、保護者、地域社会、さらにはテクノロジーなどとの相互作用を通じ、協力して学ぶ必要性を強調。そのためにも個人や集団として自己効力感を持ち、学校の風土や意思決定に参加する必要性を説きました。
22年12月の中教審答申(「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について)も「教師の学びの姿も、子供たちの学びの相似形である」と指摘しています。OECDのプロジェクトで言えば、ラーニング・コンパスとティーチング・コンパスの対応関係に当たるでしょう。生徒がエージェンシーを発揮してウェルビーイングを目指す資質・能力を身に付けるには、教師のエージェンシーやウェルビーイングの確保が不可欠です。
22年や今年の答申では、「令和」型の研修の必要性が指摘されています。その一環として教員免許更新制を発展的に解消し、研修履歴を基にした受講奨励という新たな研修制度を開始。教師に共通して求められる資質能力として、学習指導や生徒指導に特別支援やICTなどを加えた再整理も行いました。ただし、そうした新制度を実際にどう運用するかが問題です。教育政策や学校の課題対応に必要な研修ばかりになっては、やらされ感が募ることでしょう。
生成AI(人工知能)の登場や各地で紛争が頻発するなど、先行き不透明な時代を生きる子どもたちを育成するために、今こそ教師がエージェンシーを存分に発揮して自律的に学ぶことと、それを保障するための環境整備が求められます。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/