教えて!なぜ大学で学生の勉強時間を把握するの?
大学進学の指導では現在、新課程に移行する大学入学共通テスト対策の追い込みに入っているところです。そんな折、中央教育審議会では学生の勉強時間が短いことを問題視し、文部科学省も来年度から各大学で勉強時間を把握する調査を行うといいます。昔の学生に比べれば授業には真面目に出席しているようですが、なぜでしょうか。
ご存じの通り大学の単位は、授業だけでなく予習・復習を含めた成果によって認定されます。学習時間を「学修時間」と呼ぶのは、そのためです。
中教審では、たびたび学修時間の短さを指摘してきました。12日の「高等教育の在り方に関する特別部会」に示された答申素案でも授業への出席時間が長い一方で、予習・復習・課題等にかけるのは週5時間以下という学生が49%を占めるという文科省の2022年度全国学生調査結果を引用しています。
ただし新型コロナウイルス禍でオンライン学習が広く浸透するなど学修の方法が多様化していることから、学修時間だけを問題にするのではなく、授業外学修の手段としてオンライン学習を積極的に活用したり、シラバスに授業外学修の内容や時間を記載したりするなど、学生への具体的な働き掛けを求めています。
ところで先に出てきた「全国学生調査」は、過去4回(19・21・22・24年度)行われてきました。学部の2年生と最終学年生を対象として、スマートフォンやタブレットからも約10分で気軽に回答してもらえるよう、24年度は質問項目を34問(うち自由記述1問)に絞るなどの工夫を行っています。
実は、これまでは「試行実施」でした。25年度からは「本格実施」として、毎年度行うことにしています。狙いは、各大学が学修者本位の教育に転換することを目指し、学生目線から実態を把握することを通じて教育の改善を促すとともに、情報を積極的に発信して進学希望者や保護者、産業界などにも各大学への理解を深めてもらうことにあります。
24年度試行調査の場合、1週間の生活時間を聞く質問で▽授業への出席▽卒業論文・卒業研究・卒業制作▽予習・復習・課題など授業に関する学習▽授業と直接関係しない自主的な学習▽部活動・サークル活動▽アルバイト・定職――のそれぞれについて、平均的な時間を七つの選択肢から答えてもらいます。別の質問項目では、大学での学び全体を振り返って「卒業時までに身に付けるべき知識や能力を意識して学修している」「授業アンケート等の学生の意見を通じて大学教育が良くなっている」「教職員が熱心に教育に取り組んでいる」「大学の学びによって成長を実感している」かどうかを4択(そう思う・ある程度そう思う・あまりそうは思わない・そうは思わない)で評価してもらいます。つまり、その大学が教育に熱心で「勉強させる大学」かどうか、実際に学生が手ごたえを感じているかどうかが、一目瞭然になるわけです。本格実施になっても大学の参加は任意ですが、調査が普及すれば、受験生にとっても大学選びの大きな参考資料となりそうです。
ところで現在、中教審が答申化を目指しているのは「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について」です。12日の特別部会には、18歳人口減の加速化により、いくら外国人留学生が増えたとしても40年には現在の入学定員の70%台しか満たせないという新たな試算も出されました。大学という存在が曲がり角にある中、社会から信頼される大学教育の質も問われている、というわけです。学生も入学後、それに応える必要があります。目先の合格だけでなく、進学後も学びを自己調整できるような態度を育むことも重要です。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/