教えて!中教審の高校WG素案に盛り込まれたのは?
中央教育審議会の高校ワーキンググループ(WG)が審議まとめを検討し、教育費の負担軽減が盛り込まれたといいます。生徒にとって朗報ですが、他に高校現場にとって新味はあるのでしょうか。
2023年8月の中間まとめでは、これまでの「共通性と多様性」を「多様性と共通性」と順序を入れ替え、より多様性を重視する基調を鮮明にしました。12月12日の会合に示された審議まとめ素案は、24年に入って5回開催した会合での議論を中間まとめに加筆修正して反映させました。そのため、中間まとめから変わらない部分も多くあります。
変更点でまず注目されるのは、「多様性への対応」の基本的な考え方の一つとして「一つの学校の中だけで教育活動や期待される機能・役割の全てを果たそうとするのではなく、他校・他課程・他学科のリソースも活用していくという考え方が重要」だと追記し、学校間連携についても小規模校だけでなく、どの高等学校にも「学びの機会の充実を図るための方策として有効」だとしたことです。これは、学校規模の縮小によって開設科目を絞らざるを得なくなっている現状を踏まえて、遠隔授業なども活用して生徒の多様な学習ニーズに応えるべきだとの考えを示したものです。
さらに、中間まとめでは「全日制・定時制課程の在り方」と「通信制課程の在り方」に分けていた項目を「全日制・定時制・通信制課程の在り方」に統合。同一校に全・定・通が併置されている場合は、課程間相互の併修を可能にして▽通信制に入学し、全・定の科目を履修して通学に慣れていく▽全日制に入学し、定・通の科目を履修する――といったことも「学びの多様化を図っていく上で有効」だとしました。
今や定時制で定通併修は普通ですが、これらを全・通に拡大することによって、課程間の垣根がぐっと下がることになります。あくまで「生徒を主語にした」(中間まとめから変更なし)高校にすべきだという姿勢を徹底したものだと言えるでしょう。
ただ、これまで課程の別を前提として科目選択も校内に限ってきた学校運営の原則に、揺らぎが生じることになります。年明け1月末の次回会合で示される審議まとめ「案」で、どのような書きぶりになるかが注目されます。
もう一つ注目すべき変更点は、総合的な探究の時間を中心とした探究活動について、中学校まで(総合的な学習の時間)との違いを意識して「より洗練された質の高いもの」にするよう求めたことです。質の高い探究とは「探究の過程が高度化するということと、探究が自律的に行われるということ」だと説明。脚注では「高度化」の姿は ①目的と解決の方法に矛盾がない(整合性)②適切に資質・能力を活用している(効果性)③焦点化し深く掘り下げて探究している(鋭角性)④幅広い可能性を視野に入れながら探究している(広角性)など、「自律的に行われる」姿は ①自分にとって関わりが深い課題になる(自己課題)②探究の過程を見通しつつ、自分の力で進められる(運用)③得られた知見を生かして社会に参画しようとする(社会参画)などで捉えられるとしています。
これらは25日に諮問されて始まる、学習指導要領の改訂論議にも反映されるものとみられます。22年6月に内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が提言した通り、これまで学校側(サプライサイド)の都合が優先されてきた教育に、子ども目線(デマンドサイド)への転換が迫られるかもしれません。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/