教えて!指導要領の改訂諮問をどう読む?
12月25日の中央教育審議会に、学習指導要領の改訂(教育課程の基準の在り方)が諮問されました。小中学校で授業時間を5分短縮するといいますが、単位制の高校には関係なさそうです。教員の負担に配慮するというのは大歓迎ですが、諮問をどう捉えればいいのでしょう。
日刊紙の報道は一般向けですから、必ずしも教員の関心事に合っているとは限りません。しかし記事を注意深く読めば、「教育課程の柔軟化」「学校の裁量拡大」という諮問のキーワードに気付くはずです。
中教審のワーキンググループ(WG)が高校教育について「多様性と共通性」の方針を打ち出したことは、本欄でも紹介してきた通りです。諮問でも、児童生徒の多様性に対応して教育課程も多様化していこうという方向性がにじみ出ています。
全日制・定時制・通信制の課程を柔軟化することや、総合的な探究の時間を改善するという高校WGの案も、諮問に盛り込まれました。さらに文理横断・文理融合、外国語教育の改善、国家・社会の形成者として主体的に参画するための教育の改善など、高校教育にとって無視できない検討事項が並んでいます。
あまり注目されていませんが、教育の在り方を大きく変える可能性を秘めた課題が挙げられています。「個別の知識の集積に止まらない概念としての習得や深い意味理解」「各教科等の中核的な概念等を中心とした、目標・内容の一層分かりやすい構造化」です。
諮問の準備作業を担った文部科学省「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」(座長=天笠茂・千葉大学名誉教授、いわゆる天笠検討会)の論点整理では、知識・技能を「個別的知識・技能」と「概念的知識・方略」に整理するよう求めています。概念とは、現行指導要領の「見方・考え方」を発展させたものだと考えればいいでしょう。
これまでは個別的知識をたくさん覚えれば、課題解決の力も自然につくと思われてきました。しかし、それだけでは「転移する(他に活用できる)学力」につながらないことが分かってきました。だからこそ個別的知識を「例」として、もっと高次の知識である「概念」として獲得させる必要がある、というわけです。先日行われた新課程初の大学入学共通テスト本試験でも、知識を基に思考力や判断力を働かせなければ解けない問題が旧課程にも増して出されました。概念を全面に打ち出すことで、受験対策の在り方にも今まで以上の衝撃を与えるかもしれません。
そもそも個別的知識は、今やネット検索すれば容易に得られるものです。取り出した知識をどう活用し、答えのない課題に納得解を見いだし、解決しようとするかが「VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)」の時代には問われます。
概念を中心に据えれば、学習内容もスリム化できますし、教科書も「網羅的に」扱う必要がなくなって分量も抑えられる可能性が出てきます。裏を返せば、子ども一人ひとりが概念をしっかり獲得できる、自律的な学びを保障するような授業の工夫が不可欠になります。そのための裁量拡大だ、と捉えることができます。
指導要領本体と解説などの役割分担、さらにはデジタル技術も駆使して文章に限らず表形式で示すことなども検討されそうです。高校では情報の扱いを除いて科目再編などはなさそうですが、それだけに現行指導要領の方向性をいっそう先鋭化するような改訂になることは間違いありません。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/