教えて!学習指導要領の改訂論議は今後どう進む?
「昨年末、中央教育審議会に諮問された学習指導要領の改訂論議が気になっていますが、授業や業務に追われて情報収集できていません」。そんな中、「放課後に中教審を傍聴した」という学校の話を聞きました。どうなっているのでしょうか。
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諮問を受けて1月30日、改訂の基本方針を集中的に検討する「教育課程企画特別部会」が発足しました。奈須正裕・教育課程部会長(上智大学教授)から主査に指名されたのは、教育政策や教育行財政学の専門家で中教審「質の高い教師の確保特別部会」部会長も務めた貞広斎子・千葉大学副学長。「教育課程の実施に伴う負担への指摘に真摯(しんし)に向き合う」(諮問理由)意気込みの一端がうかがえます。
初会合では配布資料として、特別部会としての検討事項とともに、教育委員会・学校・メディアなどが審議状況や方向性を把握しやすくするためだとして、第6回(4月25日)までの開催スケジュールも示されました。しかも毎回「現状と課題・論点等を分かりやすく整理した資料を提示する」といいます。
2月17日に開催された第2回会合は、第1の検討事項「質の高い、深い学びを実現し、分かりやすく使いやすい学習指導要領の在り方」を議題とし、「論点資料① 学習指導要領の一層の構造化」が配布されました。現行指導要領は▽資質・能力の深まりのイメージがつかみにくい▽資質・能力の複数の柱を一体的に育成するイメージがつかみにくい――などとして、知識・技能や思考力・判断力・表現力等の「タテ」「ヨコ」関係を、視覚的につかみやすくすることを提言しました。
といっても、イメージは湧きにくいでしょう。ヒントになりそうなのが、この日に発表した委員2人のうち石井英真・京都大学大学院准教授が示した「石井試案」です。現行指導要領の記載を、実際に表形式で整理したものです。
法令に準じる指導要領は「単一の形式とならざるを得ない」(論点資料①)ため、今後も文章形式で告示されることは変わらないでしょう。ただし実際の教育現場では、デジタルも活用して構造化された表を参照しながら、カリキュラム・マネジメントや単元構成を考えていくことが普通になりそうです。少なくとも隣接校種を含めて指導要領や解説の冊子をどさっと渡されるよりも、便利になることでしょう。
表の上位に「中核的な概念」「中核的な方略」(石井試案)を位置付けて構造化すれば、学年や学校種を見渡せるとともに、資質・能力ベースの授業づくりが組みやすくなります。学習にはあくまでコンテンツ(学習内容)を使うものの、それ自体の習得に偏るのではなく、あくまで概念形成を目的として、コンテンツは入れ替え可能な「イグザンプル(例)」(奈須部会長)扱いとする案も有力になっています。そうすれば、授業過密化の一因となっているカリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)問題も解消できる、というわけです。
貞広主査は、資料や議論を現場に見てもらい、審議プロセスに参加してもらうことで「共感と納得」の改訂にしたい考えを述べています。会合は文科省ホームページ(HP)で傍聴登録した人に、動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」で配信されます。これまでの会合には、1000人前後の登録がありました。28日15時半~18時に開催される第3回会合は、きょう(26日)17時までに申し込む必要があります。第4回会合は3月28日13~15時の予定です。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/