教えて! 高校改革『グランドデザイン』の内容は?

 高校の授業料無償化を契機に国が策定するとしていた高校教育のグランドデザインで、骨子が公表されたといいます。どのような内容なのでしょうか。

 グランドデザインの発端は今年2月、自民・公明・日本維新の会の与野党3党が高等学校等就学支援金の支給額の上限引き上げで合意したことにありました。中所得層にとって私立高校が選択しやすくなる一方、公立高校、とりわけ過疎化した地方の高校や専門高校が選ばれなくなる懸念が出てきました。
 そこで6月の3党合意に、国のガイドラインを基に都道府県が高校教育改革実行計画を作成することが盛り込まれ、政府の「骨太方針」にも反映されました。3党合意に自民党側の実務者として奔走した松本洋平氏が高市早苗内閣の文部科学相に就くと、省内に自身を主査とする「人材育成システム改革推進タスクフォース(TF)」を設置。11月28日に「高校教育改革に関する基本方針」(グランドデザイン(仮称))骨子~2040年に向けたN-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想~」 を公表しました。ネクストはNew Education, New Excellence, New Transformation of High Schools の略です。

 骨子では、少子高齢化や生産年齢人口の減少、地方の過疎化が深刻化する一方、産業構造などの変化を踏まえた労働力の需給ギャップや理系人材の不足という「2040年問題」が予測される中、高校生が「自ら問いを立てる力」「他者と共に価値を作り出す力」等を身に付け、進学や就職等を経て生涯を通じ幸福に暮らしていくことができるよう高校改革に取り組むとしました。
 その上で、高校から大学・大学院に至るまでの一貫した教育改革により、強い経済や地域社会の基盤となる人材育成を実現するため①不確実な時代を自立して生きていく主権者として、AI(人工知能)に代替されない能力や個性の伸長②我が国の経済・社会の発展を支える人材育成③一人ひとりの多様な学習ニーズに対応した教育機会・アクセスの確保――の視点を示しました。
 AIに代替されない能力とは▽言語能力▽情報活用能力▽問題発見・解決能力▽他者と協働する力――などだといいますが、いずれも学校現場になじみのあるものでしょう。イノベーション創出に向けて「生徒の『好き』を育み、『得意』を伸ばす」としているのも、次期学習指導要領を意識したものです。
 団塊ジュニア世代が高齢者となる40年には、理系人材が100万人以上も不足する一方、文系は30万人以上の過剰供給になるとの予測もあります。そこで探究学習や実践的な学びはもとより、文理横断・STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育を進め、デジタルと文系的素養の両方を備えてAIを使いこなせるような人材育成を進めたい考えです。デジタル技術を活用して生活に必須な職業を担う「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」の育成も不可欠で、そのためにも地方で高校教育の機会を確保する必要があります。

 骨子では、理系や専門高校の人材育成で目標設定を検討するとしています。今月16日に成立した補正予算には2955億円もの「高等学校教育改革促進基金の創設N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想」事業が計上され、パイロットケースを創出して改革をリードしてもらいたい考えです。
 TFが高校だけでなく、大学・大学院の改革も視野に入れていることに注意が必要です。少なくとも早い学年で生徒に文理選択を迫るような普通科高校の在り方には早晩、変更が迫られそうです。


【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/