教えて!第13期中教審はどうなるの?

 第13期中央教育審議会の委員(任期2年)が10日に任命され、17日の総会で新会長に前副会長の橋本雅博・住友生命保険会長が選ばれました。せっかく第12期に教員出身者(荒瀬克己・教職員支援機構理事長=元京都市立堀川高校長)が初めて会長に就いたというのに、また経済界に戻るのか……と思わなくもありません。委員には小・中・高校の校長会長が全員いなくなり、大学の学長が5人も新任で入ったといいます。学習指導要領の改訂論議が本格化する期なのに、大丈夫なのでしょうか。

 確かに委員の顔触れを見ると、橋本新会長が経団連で教育・大学改革推進委員長(小路明善・アサヒグループホールディングス会長と共同)を務めていることも含め、前期の初等中等教育から大学教育にシフトしたようにも見えます。今期は2月の「知の総和」答申(我が国の「知の総和」向上の未来像~高等教育システムの再構築~)を受けて▽学びの質を高めるための教育内容・方法の改善▽新たな質保証・向上システムの構築等――を審議するといいますから、大学の再編統合も含め、高等教育が大きな焦点になることは確かです。

 注目したいのは、橋本会長が就任あいさつで「予測困難な時代が続く中、何十年先という未来を見据えつつ、多様な関係者の意見にも耳を傾けながら、丁寧に議論を進めてまいりたい」と述べただけでなく「各分科会・部会の審議はかなり専門的になるが、総会で横串を刺し、それぞれの接続や連携にも留意したい」との姿勢を表明し、委員から相次いで賛同を得たことです。
 橋本会長は『月刊高校教育』昨年10月号の巻頭インタビュー(「『外』から見た教育界の課題(上)」)でも、分科会同士の「つなぎ」機能が乏しいと指摘していました。「組織には思わぬ落とし穴や暴走がありますからね」と語っていたのも、会社組織でもまれてきた経験を踏まえてのようです。
 委員からは、高大接続や大学入試も議論するよう提案がありました。総会終了後この点を橋本会長に尋ねると「入試はトリガー(引き金)として分かりやすい」と意欲的でした。
 高大接続改革は第6・7期の2012年9月~14年10月にも審議され、同年12月の答申に基づいて、大学入学共通テストの創設などが行われました。ただ、「高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革」(答申タイトルの一部)と言う割には各段階の改革メニューがバラバラに構想された感は否めず、答申を受けた「高大接続システム改革会議」(15年3月~16年3月)に至っては「教育接続」より「入試接続」に終始した印象があります。
 しかし知の総和答申も指摘する通り、地方はおろか大都市圏でも高等教育機関の規模を維持することは困難になります。人口減少が激しくなる中、一人ひとりの能力を向上させるしか、個人にとっても社会にとっても幸福度を上げる道はありません。幼稚園から高校、大学、さらには社会も含めた教育接続を真剣に考えなければならない岐路に立たされているといっても過言ではないでしょう。「橋本中教審」の今後が注目されます。

 なお橋本会長は、先の就任あいさつで「中教審での審議に広く社会の関心を持っていただくことは大変重要だ。審議の過程、プロセスを分かりやすく発信していくことも必要」とも述べていました。審議プロセスの発信は既に、指導要領改訂を集中審議する教育課程企画特別部会で試みが始まっています。高校現場としても、大きな議論が行われそうな中教審の論議を注視していく必要がありそうです。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/