教えて! PISA2025からのメッセージは?

 昨年実施された「生徒の学習到達度調査」(PISA)の結果が、大きく報道されました。日本の結果はおおむね良好だったようですが、課題を指摘する記事も少なくありません。調査対象となった15歳を抱える高校として、結果をどう受け止めればいいのでしょうか。

  改めて確認しておくと、PISAは経済協力開発機構(OECD)が2000年以来3年ごとに実施している「調査」です。各国の教育政策に生かすのが目的で、決して国際学力コンテストではありません。各国で妥当な統計データが取れればいいので調査対象は抽出で、全員が同じ問題を解いているわけでもありません。そのため参加国(OECD加盟38カ国を含む91カ国・地域)の順位にも幅があります。報道では素点に基づいて日本は読解4位、数学・科学が各5位とされましたが、統計的有意差のない範囲では読解3~9位(加盟国中1~8位)、数学5~7位(同1~2位)、科学3~5位(同1~3位)となります。

 読解力の低下(統計的に比較可能な形で換算した素点で前回2022年比13ポイント減の503点)を指摘する報道もありましたが、過去8回の増減幅(538~498点)の間にとどまっており、OECDは「安定して高い成績を維持している」と判断しています。というのも加盟国平均は12年をピークに急落傾向にあり、今回は15ポイント減の461点でしたから、日本は踏みとどまっているとみることもできます。

 さて、PISAは「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS)と違って、知識・技能を実生活で直面する課題に役立てられる「リテラシー(活用能力)」を測っています。今回の調査で注目されるのは、今回の「中心分野」(主要3分野を持ち回りで詳しく調査)である「科学的リテラシー」を「科学的コンピテンシー」に名称変更したことです。

 これは測定する能力の定義として、従来の▽現象を科学的に説明する▽科学的探究のための計画を構築し、評価し、科学的データと証拠を批判的に解釈する――に「意思決定と行動のために科学的情報を調査し、評価し、利用する」を加えたからです。ここには、気候変動時代における持続可能性の問題に取り組む「環境リテラシー」も含むとしています。既に環境問題は、学んだ結果を基に一人一人の行動が問われる時代に入ったと言えます。OECDが「Education2030プロジェクト」に学習者の「エージェンシー(変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力)」を位置付けたこと、日本でも中央教育審議会で検討されている次期学習指導要領で「民主的で持続可能な社会の創り手」を育成しようとしていることとも連動するでしょう。

 今回の調査では主要3分野に加え、革新分野(オプション)として「ラーニング・イン・デジタルワールド(LDW)」が行われたことも特徴です。そのうち今回発表されたのは「コンピュテーショナルな問題解決能力」だけですが(他に「自己調整学習」=来年5月公表予定)、日本は他の加盟国を引き離して1位でした。先の読解力低下もデジタルツールの影響で「急ぎ読み」が増えたことが要因だとOECDは分析しており、日本はAI(人工知能)も含めICTの導入が遅れたことが逆にメリットになったとみることもできます。そうは言っても今後の社会生活にAIが不可欠ですし、次期指導要領でも強化される方向ですから、いかに生徒一人一人の能力を拡張させるために使うかを授業でも考える必要があります。

 また報道の通り、日本は低得点層の増加が問題視されています。偏差値輪切りの高校こそ、課題集中校などに手厚い支援が求められます。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/