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どのような大学が多面的な入試改革を導入するのか―入試制度に関する学長調査

ここでは、本誌が2013年8・9月に行った「入試制度に関する学長調査」(調査対象:全国の大学745校、回答数:452校、有効回答率:60.7% :本誌184号掲載)を用いて、現在、どのような大学がどのような課題感を持っており、今後、どのように入試を工夫しようとしているのかを明らかにする。今回特に焦点を当てるのは、以下に示した6つの問いである。順に検討していこう。

① 学生に対する課題感によって、大学をどのようにパターン化できるか
② 学生に対する課題感は、大学の属性によってどのように異なるのか
③ 学生に対する課題感は、現在の入試方策の違いにどのように影響をしているのか
④ 学生に対する課題感は、今後の入試方策の違いにどのように影響をしていくのか
⑤ 入試結果分析の充実度は、今後の入試方策の違いに影響を与えているのか
⑥ 行いたい入試改革の内容によって、学内組織の課題はどのように異なっているのか

課題 ① 学生に対する課題感の類型化

 アンケートでは、学生に対する課題感として、「定員の確保」「学生の学力」「学生の意欲」の3つをどのように評価をしているのかを尋ねている。全体では63.4%の大学が「定員の確保」に、85.0%の大学が「学生の学力」に、70.8%の大学が「学生の意欲」に課題を感じている。ここでは、この3 つの課題感を組み合わせて、5つの類型を作った(図1)。まずは「定員の確保」の課題感によって、「大きな課題」の場合(A)、「ある程度課題」の場合(B)に分けた。「定員の確保」が課題でない大学については、「学力と意欲のみが課題」である場合(C)、「学力のみが課題」である場合(D)、全く何の課題感もない場合(E)にさらに分けた。内訳は、順に33.9%、30.4%、17.4%、7.6%、10.7%となっている。

 学生に対する課題感は、学生と大学教育のミスマッチに対する課題意識(不本意入学や退学の問題等)とも密接につながっている(図2)。ミスマッチ認識は、「定員確保大きな課題」で最も大きく、次いで「定員確保ある程度課題」「学力と意欲が課題」となっている。注目すべきは、「学力と意欲が課題」の大学は「ある程度課題」「大きな課題」の合計で64.9%がミスマッチの課題を認識しているのに対して、「学力のみ課題」では29.4%、「課題なし」では27.1%であり、この間には大きな隔たりがある。

課題 ② 大学の属性と課題感の関係

 図3には、5類型と基本属性(設置形態・在学者数・倍率)との関係を示した。国立では「課題なし」が39.0%、公立では「学力と意欲」が34.6%、私立では「定員確保大きな課題」が44.8%と最も多い。規模別には、3000人未満の小規模校では「定員確保大きな課題」が44.9%、それ以上の規模では「定員確保ある程度課題」が最も多い。志願倍率は、低倍率で「定員確保大きな課題」が67.8%、中倍率・高倍率では「定員確保ある程度課題」が最も多い。高倍率の大学では、「学力と意欲が課題」の大学も32.5%と多い。

課題 ③ 課題感と現在の入試の工夫

 課題感によって現在の入試形態の割合・入試の工夫も異なっている。まず、図4 には課題類型別の入試形態の割合を示した。課題感が少ない大学ほど一般入試の割合が高く、課題が増えるにつれてその割合が低くなり、推薦・AO入試の割合が高まる傾向は明確である。一般入試で募集定員が確保できればよいが、できない場合に、それ以外の方法でなんとか定員を埋めているという実情が見えてくる。

 既に行っている入試の工夫との関係性も明確に見られる。図5 には、類型別に違いが見られた取組のみを示した。学生像に合った独自入試は、「学力と意欲が課題」の大学で最も実施されていない。定員確保が課題の大学の8 割ほども導入しているが、課題感のない大学の約7割も導入しており、こうした工夫のおかげで大きな問題がないとも考えられる。地方入試・奨学金とのリンク・付属系列高校・受験料割引は、課題を多く抱えている大学ほど導入している傾向が明確に見られる。WEB出願については、むしろ「定員確保ある程度課題」と「学力と意欲が課題」の大学で実施率が高い傾向にある。

課題 ④ 課題感と今後増やしたい入試形態の種類と入試の工夫

 図6には、課題感別の増やしたい入試形態の種類を示した。多くの大学で増やしたいのは一般入試であると思われるが、特に「定員確保大きな課題」では73.0%、「定員確保ある程度課題」では52.2%にも及んでいる。推薦入試を増やしたいのも「定員確保大きな課題」の大学で最も多い。注目すべきは、留学生入試・AO入試を最も増やしたいのは、「課題なし」の大学である点だ。現状には特に大きな課題感はないが、新しい多面的な入試をさらに取り入れ、より良い学生を確保しようとしているようである。

 図7には、課題感別の増やしたい入試の工夫を示した。「入試結果分析」は多くの大学が取り組みたいと感じているが、特に「定員確保」が課題となっている大学、「学力と意欲が課題」の大学で多い。「学生像に合った独自入試」を増やしたいのは、「学力と意欲が課題」の大学で41.6%と最も多く、次いで「課題なし」37.0%、「定員確保ある程度課題」35.7%となっている。「WEB 出願」は、定員確保に課題感のある大学で増やしたい傾向が見られる。

課題 ⑤ 入試結果分析の充実度と入試方策の関係性

 自大学の学生像に合った独自入試を行うには、自大学の学生がどういうタイプなのか、入試形態等によってどのように異なるのか等、学内情報の分析が必要になることは容易に想像がつく。そこで、そうした入試を既に実施している大学、あるいはこれから増やしたい大学では、そうではない大学と比較した時に、入試結果の分析をより熱心に行っているのかを検討した。

 図8では、入試分析の活用状況と、学生像に合った独自入試の現在の実施率との関係を、倍率別に示した。次年度以降の入試改革に活用している大学は、活用していない大学に比べて、独自入試の実施率が高い。特に、高倍率大学では、入試改革に活用している大学では78.2%が独自入試を実施しているのに対して、活用をしていない大学では、独自入試の実施率は16.7%と極めて大きな違いがある。これほど明確ではないが、学部学科の改組に入試分析の結果を活用している大学のほうが、していない大学よりは、独自入試の実施率が高い傾向も確認できる。また、学生の入学後の成績や状況についての追跡調査を実施している大学も、そうではない大学に比べて、独自入試の実施率は高い。特に高倍率大学では、78.9%と50.0%と大きな開きがある。

 図9 には、入試分析の活用状況と学生像に合った独自入試を今後増やしたいかの関連を示した。入試分析の結果を、FDの検討材料・学部学科の改組・次年度以降の入試改革に活用しており、学生の追跡調査を実施している大学ほど、今後、学生像に合った入試を増やしたいと考えている傾向が見られる。入試分析の結果を教職員に共有している大学については、逆の関係が見られた。入試分析の結果を組織として検討して、改革に生かす場合には、入試の特色化を促す材料になるが、単に入試分析の結果のみを教職員に示すだけでは、入試改革にはつながりづらいことを示している。

課題 ⑥ 入試改革の内容と学内組織の課題

 以上見てきたように、学生に対する課題感の違いが、現在、そして今後の入試改革の方策の違いに影響を与えていた。大学によって行いたい入試改革の内容は異なるが、その内容の違いは、学内組織に異なる課題を与えているのだろうか。アンケートでは、「学士力育成の入り口としての入試の在り方を実現するための、学内組織の課題」について尋ねている。表1では、今後増やしたい入試形態によって、どのような学内組織の課題感が高いのかを示した。「学生像に合った入試」を増やしたい大学では、「学内情報の分析機能(IR)の強化」と「3つのポリシーの具体化」が課題になっている。学生像を明確にすることは出口イメージや、そこにつなげていくための入試・教育を具体的に考えることにつながるし、そのためには学内情報の分析が不可欠であろう。一般入試を増やしたい大学では、「教職員の意識改革」「教学改革」「中長期計画」「就職資格実績向上」が課題になっている。定員の確保に課題を持つ大学がこうした点を重視しているのは極めてよく理解できる。推薦入試を増やしたい場合は「就職資格実績向上」、内部推薦を増やしたい場合はそれに加えて「教職員の意識改革」が課題となる。確実に入学してもらうためには出口を保証しないといけないし、内部推薦の場合は高大接続の観点も強くなるため、教職員の理解と協力を得ることが重要になるだろう。AO入試を増やしたい大学では、「3つのポリシーの具体化」が、留学生入試を増やしたい大学では、「IRの強化」が課題となっている。

 大学によって学生に対する課題感が異なり、それが入試改革の中身の違いに影響を与えていること、さらには、実施したい入試改革の方向性によって学内組織の課題感も異なることが、具体的に明らかになった。

両角 亜希子(東京大学大学院 教育学研究科 准教授)