教えて!「日本の高校生の社会意識」

次期学習指導要領の改訂内容を具体的に話し合う中教審の専門部会が順次スタートしています。今回の改訂では、高校教育の改革が大きな焦点の一つです。一方で来夏からは18歳となる高校生に選挙権が与えられ、社会参画の意識を育成することも、高校現場にとって待ったなしの課題になっています。ところで、肝心の当事者である高校生の実情は、どうなっているのでしょうか。

教えて!「日本の高校生の社会意識」

 
 高校生の意識調査として代表的なものに、米国・中国・韓国を加えた4カ国の比較調査があります。以前は財団法人日本青少年研究所が行っていましたが、同財団の解散に伴い、今は国立青少年教育振興機構が引き継いで実施しています。2014年度の調査結果をみると、勉強の目的として「将来、希望する仕事に就くため」(62.5%)や「社会の役に立つ人間になるため」(26.5%)と答えた高校生は4カ国の中で最も多いのですが、人生の目標について尋ねた設問では「自分が幸せと感じること」(74.3%)、「円満な家庭を築くこと」(59.6%)、などが上位に挙がり、「社会のために役立つ生き方をすること」(31.9%)は中国と並んで低くなっています。自分と社会の関わりを考えた上で将来のために勉強する、というより、まずは「大学進学のため」(44.0%)など目先の課題に取り組みながら、勉強自体の意義を見いだしている、という方が実態に近いようです。

 社会や国に対しては「いまの社会は貧富の差が大きい」(75.0%)ことや「努力しても必ずしも報われない」(68.1%)といった問題を認識しながら、「自国で暮らすことに満足している」(91.5%)との回答が4カ国で最も多くなっています。

 08年度の調査では、「私の参加により、変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」と回答した日本の高校生は30.1%で、70%近くに上る他の3カ国と対照的な結果が出ていました。その後この質問は行われていませんが、「現状を変えようとするよりも、そのまま受け入れるほうがよいと思う」割合をみると、08年度55.1%→11年度56.7%→14年度36.2%と近年になって大きく減っていますから、裏を返せば、能動的に社会を変えられると考える向きが急速に増えているかもしれません。

 一方で、自己肯定感は依然として低いままです。「私は人並みの能力がある」(55.7%)とか「私は、勉強が得意な方だ」(23.4%)と考える割合は4カ国で一番低く、「自分はダメな人間だと思うことがある」(72.5%)割合は最も高くなっています。もともと自己評価を低く抑える日本文化の影響とみることもできますが、それが消極性につながっているとしたら見過ごせません。

 中教審の教育課程企画特別部会が8月にまとめた「論点整理」で、高校を「社会で生きていくために必要となる力を共通して身に付ける、初等中等教育最後の教育機関である」と強調した上で、高校教育部会が昨年6月に提言した高校教育の「コア」(確かな学力、社会・職業への円滑な移行に必要な力、市民性)を踏まえつつ、育成すべき資質・能力を明確化すべきだとしていることに、改めて注目したいと思います。とりわけ新科目「公共(仮称)」は「家庭科や情報科をはじめとする関係教科・科目等とも連携しながら、主体的な社会参画に必要な力を、人間としての在り方生き方の考察と関わらせながら実践的に育む科目」だとしています。18歳選挙権を契機に文部科学省などが作成、配布した副教材と指導資料で示された内容は、その先取りと言ってもいいでしょう。

 もう「高校を卒業しても、成人になるまでには2年ある。まずは進路実現が先決だ」などと悠長に構えてはいられません。在学中に選挙で意思決定ができる力を育成するためにも、社会との関わりで自分という存在を考えさせるキャリア教育や市民性育成の視点による高校教育が、急務となっているのです。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/