教えて!「どうなる国立大学の推薦・AO入試」

国立大学協会が9月にまとめた「国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン」に対する注目が高まっています。その中で、2021年度までに「推薦入試、AO入試、国際バカロレア(IB)入試等」を、入学定員の30%にまで拡大することを提言しているからです。国立大学の入試は、今後どうなるのでしょうか。

教えて!「どうなる国立大学の推薦・AO入試」

 
 アクションプランは、国の社会・経済の長期的な動向を見据えて、国立大学が主体的な改革を行うことを目指したものです。2021年度とは、6年ごとに策定される「中期目標・中期計画」の第3期期間(2016年度から)に合わせたものです。アクションプランに付けられた工程表では、2018年度までの進捗状況を踏まえ、2019年度以降の取り組みを進めるとしています。

 ところで2019年度といえば、高大接続改革において、高校版の全国学力テストとも言うべき「高等学校基礎学力テスト(仮称)」の開始が予定されている年度であり、翌2020年度には大学入試センター試験の後継である「大学入学希望者学力評価テスト(同)」も始まります。アクションプランでは「最近の高大接続システム改革の議論の中でも、大学が多様な背景を持った学生を受け入れることの重要性が指摘されている」ことを踏まえた上で、国立大学でも「確かな学力とともに多様な資質を持った高等学校・高等専門学校卒業生を受け入れる」入試改革を推進するとしています。その代表例が、推薦・AO・IB入試の拡大だというわけです。ここから、何を読み取るべきでしょうか。

 文部科学省は、2014年12月の中央教育審議会「高大接続答申」を受けて、現在、有識者による「高大接続システム改革会議」で、二つの新テストの制度設計などについて、2016年3月の最終報告に向けて詰めを行っているところです。基礎学力テストで知識・技能を、学力評価テストで思考力・判断力・表現力を中心に測り、個別大学の入学者選抜では多様な資料を基に主体性・多様性・協働性(学習意欲)を加えて、各大学で入学者を選抜する――というのが高大接続改革の構想であり、全体として「学力の3要素」をバランス良く測定することを目指しています。決して知識・技能が軽視されているわけではありませんし、逆に知識・技能だけで通用するわけでもありません。特に国立大学が今後も「地域と国の発展を支え、世界をリードする」以上、3要素の全てで高いレベルを求めることは間違いないでしょう。

 2016年度入試では、東京大学が推薦入試を、京都大学が特色入試を導入したことが注目されました。国内2大トップ大学として、高い知識・技能はもとより、思考力・判断力・表現力についても更に高いレベルを求めたい考えの表れです。たとえ少数であっても、多様な学生を交えなければ、世界中の大学と肩を並べる教育・研究はできない、という危機感が、そこにはあります。

 東大・京大ほどではないにせよ、多様な学生に価値観をぶつけ合わせ、その中で切磋琢磨(せっさたくま)させなければ、社会から評価される卒業生は生み出せない、という危機感は、多くの国立大学で共通しています。30%という高い目標も、単に国から言われたから、というだけでなく、国立大学側でも必要だと考えていることの表れでしょう。

 そもそも中教審答申では、一般・推薦・AOという入試区分を廃止することも提言されています。高校側にも、今後ますます多様化する入学者選抜に向けて、学力の3要素に基づいた幅広い資質・能力を生徒に育成するとともに、各大学が求めるアドミッション・ポリシー(AP)に基づいて主体的に進学先を選べるようにする進路指導が、いっそう求められるでしょう。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/