教えて!「見えてきた?新テストの試験問題」

高校教育・大学教育・大学入学者選抜を一体で見直す「高大接続改革」の有識者会議が、大学入試センター試験の後継となる「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)の記述式問題イメージ例を公表しました。新テストの姿は、これで見えてきたのでしょうか。

教えて!「見えてきた?新テストの試験問題」

 

 以前お伝えした通り、「高等学校基礎学力テスト」(仮称)を含めた二つの新テストをめぐっては、技術的な困難が多々あることが指摘されていました。とりわけ学力評価テストは、思考力・判断力・表現力を中心に測定し、かつ多くの大学で入学者選抜に使えるよう、難易度を広範囲に設定することだけでも難題です。さらに、マークシート方式(多肢選択式)だけでなく記述式も導入しようというのですから、ハードルは上がらざるを得ません。

 12月22日に開かれた「高大接続システム改革会議」の第9回会合で、ようやく学力評価テストの記述式問題について、「当面」の対象教科として絞られた国語と数学で、各3問、1問の作問イメージが示されました。(高大接続システム改革会議(第9回)あくまで出題の考え方を示すために作成したものであって、実際に出題するモデル問題ではない、と文部科学省では説明しています。

 作問イメージをご覧になって、どんな印象を持たれたでしょうか。まず国語について、中学校の事情を知っている先生なら、「全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のB問題みたいだ」と思われたかもしれません。主に「活用」の力を問うB問題は「少し手を加えれば他教科の問題にもなる」(システム会議関係者)ものであり、二つの新テスト創設を提言した中央教育審議会(答申は2014年12月)でも参考例として挙げていたものです。とりわけ3題のうち1題は、やはり参考例に挙げていた国立教育政策研究所の「特定の課題に関する調査(論理的な思考)」(2012年2月実施)の問題を一部改編したものですから、似ていて当然だとも言えます。

 ここからは、一つのメッセージを読み取れるかもしれません。高校でも、小中学校で培われた知識の「活用」による思考力等を、高校でも引き続き伸ばしていってほしい、というメッセージです。次期学習指導要領では、学校種を貫く「縦のつながり」と、教科等を横断した「横のつながり」を重視した資質・能力による「構造化」が検討されています。思考力等も、そうした発達段階の連続性の中で育成することが一層求められる、ということでしょう。もっと言えば、高校で培われた思考力等を、大学でも伸ばそうというのが高大接続改革です。

 数学は、「スーパームーン」や校庭に描かれた四角形など、具体的な場面を想定しているのが目を引きます。これも、次期指導要領のキャッチフレーズとして浮上している「社会に開かれた教育課程」として、単に学んだことを教科内や学校内にとどめず、実社会・実生活での応用場面との関連を意識した扱いの表れとみることもできます。これも小中学校との連続性で捉えるべきものです。

 記述式は当面300字程度までとされています。200字以上で書くよう指定された3問目では、条件が細かく指定されています。これには、単に採点基準を分かりやすくするだけでなく、必要な情報の収集・取り出し→整理→要約・一般化→比較・関連付け…などといった思考プロセスを測ろうという意図も込められています。

 こうした作問方針で本当に広範な難易度が設定できるのか、記述式の採点に伴う困難さをどう解決するかなど、いろいろ課題が浮かんでくるのも事実です。年度内に予定される最終報告までに、作問イメージ自体にも変化があるかもしれません。しかし、まずは新テストで何を測ろうとしているのか、そのために高校の授業をどう変えることが求められているのかを読み取ることも必要ではないでしょうか。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/