教えて!「センター試験って何だったの?」

2016年度の大学入試センター試験は今月16~17日、大きな混乱もなく行われました。現在、センター試験を廃止して、2020年度から高校在学中に複数回受けられる「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)を創設するなどの「高大接続改革」が検討されています。「知識偏重」などと批判されることも多いようですが、センター試験の何が悪かったのでしょうか…?

教えて!「センター試験って何だったの?」

 
 「センター試験批判には、大学入試やテスト全般に対する忌避反応、あるいは共通一次(共通第1次学力試験)からの批判も含まれています。大学入試は常に批判される存在であり、ステレオタイプ(紋切り型)の批判もあります。現制度の批判は新制度への期待となって表れますが、新テスト構想が『現制度』になった時、批判が必ず起きることを想定しておかなければなりません」

 昨年12月に東京都内で行われた「日本テスト学会」のシンポジウムで、東北大学の倉元直樹教授は、こう指摘しました。倉元教授は、同大の「学力を問うAO入試」を開発した一人として大学教育界で知られています。

 国公立大学だけを対象として一律に5教科7科目を課していた共通一次(1979~89年度)の後継テストとして、1990年度から始まった大学入試センター試験は、四半世紀を過ぎた今や、国公私立の850大学・短大が参加し、志願者は約56万人、受験者数も約53万人で、現役高卒者の4割以上、大学進学希望者の7割以上が受けるという大規模な共通テストとして、すっかり定着した感があります。一方で、試験場は700近く、監督者など試験に携わる者も2~3万人と推定されるなど、肥大化に伴う困難が生じているのも確かです。2012年度試験では、地理歴史・公民における問題冊子の配布ミスなどで大量の再試験者が生じた大規模トラブルが起き、そのあり方が厳しく問われたことも、記憶に新しいところでしょう。

 それでも、学習指導要領に準拠し、教科書を全部読み込んで、どの高校で学んだ生徒でも等しく解答できる「良問」を出題してきた実績は、多くの高校関係者が認めるところです。「知識偏重」と批判されながらも、実際には知識を基に考えさせる問題を相当工夫して出題していることも、各教科の先生ならお分かりでしょう。

 私立大学入学者の半数以上が推薦・AO入試を経ており、事実上の「学力不問」で進学している実態を考えれば、受験者の7割が5教科6科目以上を受けているセンター試験が、入学者にバランスの取れた学力を担保する機能を担っていることは、大学関係者も高く評価するところです。

 ただ、テストであるがゆえに「点数さえ取れればいい」という風潮を生みだしたことも否定できません。たとえ考えさせる問題が出されていても、受験生の側がいつまでも丸暗記やテクニックで解こうとしていては、何にもなりません。高校や予備校が「センター試験対策」に力を入れれば入れるほど、そうした風潮を助長してしまう――と言っては、言いすぎでしょうか。センター試験自体の問題ばかりでなく、センター試験が実際にどう機能してきたのかも、改めて問われなければなりません。

 一方で、先行き不透明なこれからの時代には、大学も含め、単に学校で覚えた知識を再生・応用する能力だけでは通用しません。正解のない課題に対して、自分なりに仮説を立て、時には価値観の異なる他の人たちとも協力しながら、最適と思われる解を導き出し、解決を目指す能力や意欲が、ますます必要になります。そうした資質・能力を身に付けさせようとするのが、現下の「高大接続改革」です。そこで創設される新テストも、決して万能ではないでしょう。しかし、「入試」改革だけで状況を改善しようとするのではなく、高校教育や大学教育と一体で教育の在り方を変えていこうとしていることを、見逃してはなりません。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/