教えて!「高等学校基礎学力テストのゆくえ」

高大接続改革の一環として検討されている二つの新テストのうち、基礎的な知識・技能を中心に測る「高等学校基礎学力テスト」(仮称)の具体案が、17日に開かれた有識者会議に示されました。2014年12月の中央教育審議会答申では、夏から秋を基本として年2回程度、2・3年生が希望に応じて受けるとされていましたが、その後どうなったのでしょうか。

教えて!「高等学校基礎学力テストのゆくえ」

 
 基礎学力テストの在り方をめぐっては、有識者による「高大接続システム改革会議」の中間まとめ(15年9月)で、現行学習指導要領下(19~22年度)は実施教科を国語・数学・英語に絞るとともに、学校単位での受検を基本とすることを提案しましたが、実施時期に関しては、関係者との意見交換も行いながら引き続き検討するとしていました。実際にヒアリングなどを行ったところ、高校現場にとっては、ただでさえ学校行事や課外活動の日程が目白押しで、全国一斉のテスト日程を年2回にわたって割くのは困難だという意見が大勢を占めました。また指導改善に生かすためには、3年生では遅いという指摘も相次ぎました。

 そこで17日の同会議に示された案では、主として1・2年生を対象とする一方、学校の都合に応じて、いつでも受検できる体制を提案しました。それを可能にするのが、CBT(コンピューター使用型テスト)およびIRT(項目反応理論)という二つの方式です。
 構想によると、新作問題はもとより、高校の定期テストや、都道府県教育委員会・校長会などが実施する実力テスト、高校入試問題、民間のテスト問題なども提供してもらい、多数の問題を「アイテムバンク」にストックします。その中から問題をランダムに選び、CD-RやUSBで提供して、各学校のパソコンで解答してもらう仕組み(インハウス方式)です。パソコン環境が整っていない学校には、タブレットを貸し出します(モバイル方式)。同一問題を出題するなら全国一斉・同時刻に行わなければなりませんが、そもそも学校ごとに問題が違うのですから、いつ実施してもいいわけです。これなら学校側も活用しやすく、また結果は学校単位の分析も添えて返却されますから、その後の指導改善にも生かせる、というわけです。


 ただ、こうした夢のようなシステムが本当に19年度当初から実現できるかどうか、定かではありません。アイテムバンクから選ばれた問題が本当に一定レベルの学力を測れるかは、テスト理論に基づく厳密な検証の上、実際にシステムを運用してみなければ何とも言えません。15年1月に策定された「高大接続改革実行プラン」の工程表では、17年度からのプレテスト(模擬試験)を経て本格実施に入ることになっています。ただ、研究開発に着手するのは16年度からであり、文科省も「現段階で19年度からできるというフィジビリティー(実現可能性)があるわけではない」(同会議事務局)と認めます。その場合、現行指導要領下の「試行実施期」には当面、紙ベースによる実施を行いたい考えです。

 CBT―IRT方式は、基礎学力テストにとどまりません。大学入試センター試験に替わる「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)に関しては、記述式問題の導入に伴って、年複数回実施を当面見送る方針が1月のシステム会議で示されましたが、基礎学力テストでうまくいけば、CBT-IRT方式による学力評価テストの複数回実施も可能になります。

 一方、英語に関しては「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能を総合して実施したい考えですが、「話す」に関しては、中学校の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)と横並びで、研修を受けた各学校の教員が面接試験と採点を行うことも検討します。これにより教員自身の授業改善にもつなげる狙いがありますが、英語教員にとっては負担増となるのも確かです。

 システム会議は24日にも開かれ、基礎学力テストの問題イメージの他、各大学の個別試験の在り方も検討される予定です。議論の動向から目が離せません。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/