高大接続改革はどこへ行く!?

 大学入試をめぐる二つの新テストなどを検討してきた文部科学省の「高大接続システム改革会議」が、いよいよ25日に最終報告をまとめます。ただし11日の前回会合で出た原案を見る限り、2014年12月の中央教育審議会答申の構想からは、ずいぶん後退した感が否めません。高大接続改革は今後、いったいどこへ行くのでしょう…?


教えて!「高大接続改革はどこへ行く!?」

   「合教科・総合型」「総合型」の問題は出題しない、記述式は当面「短文」にとどめる、年複数回の実施は先送り――。大学入試センター試験に替わる「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」一つ取っても、中教審答申と比べて、幾つかの大きな変更がありました。

 もともとシステム会議は、答申および「高大接続改革実行プラン」(2015年1月策定)を受けて「高大接続改革の実現に向けた具体的な方策について検討を行う」はずでした。しかし15年3月の発足後しばらくは、中教審の蒸し返しのような議論が続いた印象があります。これは、新テストの具体的な検討などを、同会議の下に設けたワーキンググループ(WG)に委ねたためとみられます。

 そもそも中教審答申の段階で、新テストが構想通り実現できるかどうかの見通しは立っていませんでした。だからこそシステム会議を設置したわけですが、技術的な検討の結果、すぐには実現が難しい課題が山積していることが分かり、先のような“後退”につながった――というのが実際のところでしょう。

 文科省は2016年度から、本格的な新テストの研究開発に着手する予定です。ただし、最終報告に盛り込まれた提案が、すべて実現する保証もありません。報告文をよく読めば、さまざまな“逃げ”を打っていることが分かります。

 新テストは無理でも、各大学の個別選抜の改革は、もっと早く実現できそうなものです。実行プランでも「可能なものから随時実施」するとされていました。しかしシステム会議は、実質的に2月24日の会合1回だけで、大学入学者選抜実施要項の見直しを、学力評価テストの活用に合わせた2021年度に先送りしてしまいました。

 もっとも高校関係者の間には、新テストの実施時期や、入試区分(一般・推薦・AO)廃止後の「新たなルール」策定について、関係者間の協議に委ねられたことなど、最終報告の方向性を「現実に近づいてきた」と歓迎する向きもあるようです。しかし、いまだに21年度以降の入学者選抜の姿が不透明であることは、変わりがありません。

 ここで冷静に考えてみましょう。本来、大学入学者選抜の方法が決まらないと、高校の教育はできないものなのでしょうか?

 「高大接続改革」は本来、大学入学者選抜(「大学入試」ではないことに注意する必要があります)だけでなく、高校教育、大学教育を“三位一体”で改革するところに、その狙いがあります。しかも、その発端は「大学の卒業生が社会から信頼されるためには、大学教育を変えなければならない。そのためには、送り出し側である高校にも変わってもらう必要がある。高校教育を変えるには、その障害となっている大学入試も変えなければならない」という問題意識からでした。むしろ、18歳人口が最急減期に入る「2018年問題」に危機感を持つ大学の方が、改革は先行しているように思えます。

 先行き不透明な今後の社会で通用する資質・能力を高校教育できちんと育成していれば、どんな形態の入学者選抜になっても恐れることはない――というのは、理想論に過ぎるでしょうか。しかし目先のテスト対策に終始するばかりで、必要な資質・能力が身に付かずに、大学進学後や社会に出てから困るのは、目の前の生徒たちかもしれないのです。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/