高校教育課程の今後

 次期学習指導要領をめぐる中央教育審議会の検討が、夏のとりまとめに向けて佳境に入っています。そんな中、高等学校部会は今月13日、ようやく初会合を開きました。どういう状況になっているのでしょうか。


教えて!「高校教育課程の今後」

 これまでの改訂といえば、まず各教科・領域別などの「部会」で議論を積み上げ、それを“親部会”である教育課程部会でまとめて、初等中等教育分科会や総会とのやりとりをしながら答申にこぎつける、というボトムアップ型の審議形式が採られていました。これに対して今回の改訂では、前回は数ある部会の一つにすぎなかった「教育課程企画特別部会」を教育課程部会の直下に位置付けて、まず改訂の大方針を「論点整理」として確定しました。その上で、各教科等の部会を「ワーキンググループ」(WG)に事実上格下げして教育課程企画特別部会の下に置き、10月以降に順次発足したWGなどでも、あくまで論点整理に沿って具体化を検討する、というトップダウン型を採っているのが特色です。

 なぜこんな審議形式にしたかというと、まずは学校教育で「育成すべき資質・能力」(①個別の知識・技能 ②思考力・判断力・表現力等 ③学びに向かう力、人間性等)を確定させた上で、教科・領域等を超えた「横のつながり」、と、学校段階を貫く「縦のつながり」により指導要領を「構造化」した上で、教育目標・内容と指導方法、評価の在り方を一体として検討するためです。

 ……こう書いても、ピンとこない方が多いのではないでしょうか。大胆に言い換えてみましょう。これからの教員は、自分の担当する教科・科目や校種だけにとどまって、授業をすることはできない。他教科等や他校種とのつながりを常に意識して、社会に出てからも役立つ汎用的な能力を身に付けさせなければならない――と。

 もちろん、教科・科目の知識が軽視されるわけではありません。しかし、その知識を教科・科目の枠内にとどめ、学校を卒業したり、入試が終わったりした後、きれいさっぱり忘れてしまうようでは駄目だ、ということです。だからこそ論点整理では、次期指導要領のキャッチフレーズとして「社会に開かれた教育課程」を打ち出しているのです。

 少しでも知識を覚えさせようと、板書をしっかりノートに取らせ、一夜漬けで解ける穴埋め式の定期テストで単位を与える、という“善意”の指導方法は、これから通用しません。アクティブ・ラーニング(課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び、AL)が求められているのも、そのためです。

 これまで各高校の教育課程編成といえば、3年間にどの科目を開設し、どの学年に何単位を配当するか、という作業が中心だったことでしょう。しかし今後は、教科・科目の“寄せ集め”で卒業を認定する、という発想のままではいられません。指導要領で構造化された「育成すべき資質・能力」に基づき、その高校としてどのような生徒を育てるかを明確にした上で、それを実現するものとして教育課程を編成し、それぞれの授業の指導計画を立てる、という発想の転換が求められます。それがALと並ぶもう一つのキーワードである「カリキュラム・マネジメント」(CM)なのです。

 高校部会の発足が遅れたのは、まず教科・科目等の内容を確定してからの方がいいだろう、という判断からです。第1回会合には、既に新しい共通必履修科目や選択科目の案が示されています。しかし、それらも教科横断・校種縦断の一部を担う科目であることを忘れてはいけません。

 これまで以上に重要性を帯びてくるのが、総則です。総則・評価部会で検討している総則の視点例には、ALやCMはもとより、だけでなく小・中・高校を通じて「18歳の段階や義務教育段階で身につけておくべき力の共有」や「キャリア教育の視点」が盛り込まれています。これらを通して「社会に開かれた教育課程」を実現しよう、というのが次期指導要領の眼目なのです。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/