変わるか日本の英語教育

 次期学習指導要領に関する中央教育審議会の教育課程部会「審議のまとめ」 が固まりました。最大のポイントは教科横断・学年縦断の「資質・能力の三つの柱」による構造化ですが、個別の課題では、英語教育も大きな焦点の一つです。小学校高学年での教科化に伴って、中・高校でも改善が求められるというのですが……?

教えて!「変わるか日本の英語教育」

 

 今回の改訂では、全学校種の教科・領域等を、①知識・技能 ②思考力・判断力・表現力等 ③学びに向かう力・人間性等――の三つの柱に沿って具体化し、学びの本質として重要となる「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指したアクティブ・ラーニング(AL)の視点から、授業改善を行うことが眼目です。これまでの外国語教育が、そうした改訂の趣旨を先取りしてきたと位置付けることも可能です。

 しかし、理想と現実に大きな乖離(かいり)があったことも否定できません。「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」の4技能をバランス良く育成することを目指してきたのに、実際にはペーパーテスト中心の大学入試問題にも影響されて、外国語によるコミュニケーション能力の育成がおろそかになっていることです。

 文部科学省の調査によると、第2期教育振興基本計画(2013~17年度)で目標に掲げている「英検準2級以上」の英語力がある高校生の割合は、15年度で34.3%と、前年度に比べ2.4ポイント上がったものの、依然3人に1人程度にとどまっています。授業を英語で行うことが原則になっているにもかかわらず、実際に英語を用いた言語活動を「おおむね」「半分以上」行っている割合は、コミュニケーション英語Ⅰでさえ47.9%と半数を割っており、他の科目ではもっと低くなっているのが現状です。

 審議まとめでも、これまで中・高校では、文法や語彙の知識がどれだけ身に付いたかという点に重点が置かれた授業が行われ、特に「話すこと」「書くこと」の言語活動が十分に行われていないこと、習得した知識や経験を生かして目的や場面、状況などに応じて適切に表現することなどに課題があると指摘。次期指導要領では、対話や議論など、他者とのコミュニケーションの基盤を形成する観点を重視しつつ、三つの柱に沿った資質・能力を育成することを目標に掲げています。

 そのため全校に求めるのが、指標形式の目標設定です。現在でも「CAN-DOリスト」による学習到達目標を設定することが奨励され、実際にも設定する高校が15年度に51.1%と前年度比19.9ポイントの大幅増となるなど急速に広がっていますが、審議まとめでは、CEFR(セファール)などを参考にして指標を設定するとしている点が重要です。

 CEFRは「外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ共通参照枠」のことで、欧州評議会が外国語運用能力の評価のために定めた、代表的な国際基準です。英検をはじめとした英語の各資格・検定試験でもCEFRとの対照表を設け、その取得が国際的にも通用することをアピールしています。

 特にCEFRでは、4技能を「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やりとり)」「話すこと(発表)」「書くこと」の5領域に分類し、知識・技能を活用して思考したり表現したりする言語能力を示しています。国の指標形式の目標でも、この5領域での育成が求められることになります。さらに、学びに向かう力・人間性等も、「外国語によるコミュニケーション等を身に付ける上で不可欠であるため、極めて重要な観点」だと位置付けています。

 大学入試センター試験に替わる「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の開発は依然として難航しているようですが、こと英語に関しては、資格・検定試験の活用が視野に入っており、4技能測定は現実味を帯びています。入試対策を口実に英語の授業改善に及び腰になることは、もう許されないかもしれません。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/