どうなる?日本の学力評価

 大学入試センター試験に替わって2020年度から創設される「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」も、記述式問題の採点を大学側で行うことが検討されるなど、実現可能な方法が徐々に模索されつつあります。共通テストがどうなるかは受験生にとっても高校にとっても最大の関心事でしょうが、それも学力の3要素をバランス良く育成・評価することを目指す「高大接続改革」の一環だということを忘れてはいけません。高大接続時代の学力評価を、どう考えればいいのでしょうか。

教えて!「どうなる?日本の学力評価」

 

 これについては9月、大学入試センターが「高大接続における学力評価の最新動向」という、そのものズバリのテーマでシンポジウムを開催しています。といっても学力評価テストは同センターを「抜本的に改組」した新センターが実施するものですし、同センターも「くれぐれも、すぐ新テストに結び付くという誤解のないように」(大塚雄作副所長)とクギを刺していました。しかし、それだけに理想論も含めて考えるべき課題が改めて浮かび上がったと言えるかもしれません。

 シンポジウムでは、米国でも高大接続を視野に入れて「指導」の要素を組み込んだ入試アセスメントの研究開発が進められている事例が紹介されました。代表的な共通テストの一つSAT(全米大学入学共通試験)を実施する非営利テスト開発機関ETSの「CBAL」(シーバル)です。パソコン上で実生活を想定した具体的な課題に取り組みながら、文章を読んでポイントを表にまとめたり、要約文を書いたりすることで、入学後に求められるスキルがあるかを見ようというものです。裏を返せば、受験者は課題に取り組みながら、どんなスキルが求められているのかを理解でき、高校側も指導改善に生かせる可能性があります。まだ実用段階ではないそうですし、「あくまでも米国の試験制度の文脈で研究しているもの」(ポール・ディーンETS首席研究員)ですが、日本でも高大接続改革に貢献するアセスメントを検討する際、大いに参考とすべきではないでしょうか。

 もう一つCBALで注目したいのは、それが認知科学や学習科学を基にしているということです。学習科学といえば、次期学習指導要領を検討する中央教育審議会の「審議のまとめ」でも、「三つの柱」による資質・能力論が「人間の発達や認知に関する科学など」の蓄積も参考にしたとしています。資質・能力の三つの柱(知識・技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力・人間性等)は、高大接続改革で育成・評価を目指す学力の3要素(知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性)に対応するものです。

 ほとんどニュースにはなっていませんが、ちょっとした動きにも着目しておきましょう。2016年度入試から推薦入学を導入した東京大学が、10月1日付で「高大接続研究開発センター」を発足させたことです。①入試企画②追跡調査③高大連携推進――の3部門があり、大学としての入試企画立案とともに、多様な学力評価の開発も進めたいとしています。

 同センターには、大学発教育支援コンソーシアム推進機構(CoREF)も関わっていることが無視できません。東大CoREFといえば、全国の教育委員会や高校などと共同で、アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び、AL)の手法の一つである「知識構成型ジグソー法」を研究していることで知られます。CoREFが基にしているのも、まさに学習科学です。

 先のシンポジウムでは、東大の推薦入試と同時に「特色入試」を導入した京都大学の西岡加名恵・大学院教授が、同大教育学部や高校現場での「パフォーマンス評価」の取り組みを紹介していました。入学者選抜における多様な学力評価と、それに求められる資質・能力の育成は、今から取り組むべき喫緊の課題となっているのです。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/