【第3回 志望理由書に必要な「5つの観点」】
藤岡慎二(産業能率大学経営学部教授 兼(株)Prima Pinguino 代表)
1.前回まで
前回までは令和3年度大学入学選抜実施要項に記載された「努力のプロセス」をどう理解すればよいか、言語化が大学側の期待感と評価にどう繋がるのかの背景、そして生徒の人となりをいかに言語化すれば良いのか、について経験の言語化の方法としてSTAR法についてお伝えしてきました。今回は指導の遅れをどのように取り戻し、合格に向けて対策をすべきなのか言及します。また最近は地域と連携した総合的な探究の時間におけるアウトプットが自己PRの素材や出願書類の材料や根拠になることもあります。しかし、コロナ禍で制限される地域と連携した総合的な探究の時間の活動や、それ以前に、教室内でのグループワークなどの学びをどうするべきか、考えていきましょう。2.経験を言語化してからの指導について
STAR法はコロナ禍時代の推薦・AO入試において実績や成績に代わり、評価される「努力のプロセス」を言語化する方法でした。コロナ禍における指導の遅れがあるとは思いますが、今までの活動と経験を言語化することであれば、8月上旬からでも十分可能です。それでは、STAR法で言語化された経験から、どうやって志望理由を考え、出願書類の準備をするかについて説明します。
3.志望理由書に必要な「5つの観点」
出願書類にある志望理由書と言うと、出願書類における中心的な資料の一つです。実際に、受験生と大学のマッチングは、この志望理由書で評価されます。前回ご紹介した、文科省から発表された令和3年度大学入学者選抜実施要項での「(ア) 評価の方法や重み付け等に配慮し,この間の個々の入学志願者の成果獲得に向けた努力のプロセスや入学を志願する大学で学ぼうとする意欲を多面的・総合的に評価するものとする。」における“入学を志願する大学で学ぼうとする意欲を多面的・総合的に評価するもの”こそ、志望理由書なのです。志望理由書に必要な5つの観点とは
①きっかけの経験
②気づき
③明確なテーマ・学びたいこと
④志望大学が最適である理由
⑤将来の夢・志
です。既にSTAR法で経験の言語化をしていれば、A=Action、R=Resultはそれぞれ、A=①きっかけの経験、R=②気づきになります。
次の③明確なテーマ・学びたいことはどうやって導くのでしょうか。
もし、現時点で大学で学ぶ明確なテーマ・学びたいことが決まっていなければ、②の気づきをヒントに考えましょう。例えば、前回のSTAR法の説明の際の例を元に話すと
【Result】:自身の興味や日常生活をきっかけとした学びは、主体性や積極性を生むことに気づいた。その後は英語以外の科目でも自身の興味や日常生活をきっかけとすることが積極的に学ぶ秘訣だと気づいた。(中略)今までの学び方では、限られた人にしか効果は出ない。
この気づきを社会問題まで拡げて、考えて見ましょう。現在の高校での学びは、教科書を中心とした学びで、社会問題には興味をもてない生徒もいるでしょう。一方で、英語が自身の興味関心や日常生活の気づきから積極的に学べたように、社会問題についてもどうしたら、高校で自身の興味や日常生活をきっかけとした学びとして実現できるのか、なぜそれが高校では実現しにくいのかを考えてみましょう。そして、自分自身どこまで自身の興味や日常生活をきっかけとした学びは実現されていて、どこから実現されていていないのか、それはなぜか・・・。
そのように考えていくと、明確なテーマ・学びたいことが見えてきます。つまり、②気づきをヒントに得られたテーマについて自身への様々な問いかけを通じて、情報を収集しテーマに付加すれば明確なテーマ・学びたいことが具体的になるでしょう。
もし、なんとなくでも大学で学びたいことが決まっている場合は、上記のような問いかけからテーマを明確にしつつ、テーマにつながる経験やきっかけを挙げて、STAR法で言語化すると①きっかけの経験、②気づきが言語化され、志望理由書の作成が進むでしょう。
③明確なテーマ・学びたいことが決まれば、それらを探究・深堀する、解決策を実現するにはいかなる学問を学ぶべきで、如何なる大学・学部で学ぶことが最適なのかを導くことができます。ポイントは大学の入試担当者に「確かにその志望理由であれば本学が最適である」と思わせることです。④での学びを通じて、将来的に如何なる職業・立場で実現していきたいのか、社会問題やテーマに取り組んでいきたいのかなど記述します。
③明確なテーマ・学びたいことを記述するためには情報収集が必須です。自身の検索・収集目的にあった資料をインターネットや図書館で検索すると良いでしょう。
4.コロナ禍で制限される地域と連携した総合的な探究の時間について
昨年から始まった総合的な探究の時間ですが、探究の時間で活動した内容や探究した内容を志望理由に活用して推薦・AO入試に活かそうと言う動きがあります。高校での学びが生徒本人の進路を明確にし、入試機会を増やすのであれば歓迎すべき動きだと私は思いますが、コロナ禍で地域との連携を実施することができないと現場の先生方の声をよく聞きます。直接、推薦・AO入試に関係するところではないのですが、間接的に関連するところですので誌面を割いて、考えられればと思います。なぜ、そもそも総合的な探究の時間で、地域との連携を実施する必要があるのでしょうか。地域との連携はあくまで、学力の3要素を育む手段です。手段が様々な状況によって使えなくなったのであれば、目的に立ち返り、他の手段を選べば良いだけではないでしょうか。これは総合的な探究の時間に限ったことではありませんが、コロナ禍で教育活動が制限される昨今、そもそもその教育活動を実施する目的は何かを、一度立ち返って考えてみると良いと私は考えます。教育活動はあくまで手段です。手段には目的があります。目的を達成するべき、手段が使えないのであれば、他の手段を編み出せれば、目的を達成できるのではないでしょうか。そのためにも、いわゆるカリキュラムマネジメントの重要性が増してくると私は考えています。
5.最後に
以上、3回にわたってWithコロナ時代における推薦・AO入試への向き合い方について考えてきました。Beforeコロナ時代は学校内での学習が常識で、教師に学びの主導権があり、オフライン授業が主でした。しかし、コロナ禍により、家庭内での学習になり、生徒に学びの主導権が渡り、オンライン授業が始まりました。多くの先生方がオンライン授業に挑戦し、その可能性を感じつつも、家庭での教育格差、生徒の意欲格差、オンライン環境の格差などが表出化し、教育格差拡大に直面しています。これらを解決することが、Postコロナ時代における学校内外での学習、すなわち生徒が学びの主体であり教師は生徒と伴走する、オンライン&オフラインの融合された学びに繋がるでしょう。今、コロナ禍において必要なことは教育の目的を問い直し、手段を再設定することなのではないでしょうか。コロナウィルスは私たちに「なぜ実績や成績が推薦・AO入試では必要なのか」「なぜ、地域と連携した総合的な探究時間を行うのか」など「なぜ」と問い直してきます。コロナウィルスと闘うのか、共存するのかはここでは言及しませんが、いずれにしろ、コロナウィルスは私たちに「なぜ」と言う問いを投げかけています。その問いに思考停止せず、問い続けることが新たな可能性を開くのではないでしょうか。アメリカUCLAの文化人類学者のジャレド=ダイヤモンドは著作の「銃・鉄・病原菌」で「人類の歴史を動かす要素は銃・鉄・病原菌の3つである」と主張しています。教育を進化させるか、停滞させるのかは私たち次第です。
そして・・・・
この記事を執筆中、このようなニュースが飛び込んで来ました。
『横浜国立大学 令和3年度一般選抜の個別学力検査について』
「横浜国立大学では、受験生の安全と安心を第一に考え、また、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、令和3年度一般選抜の個別学力検査を実施せず、すべての学部で自己推薦書の提出を求め、大学入学共通テストの得点を用い、一部の学部では出願時に課題の提出を求める等、入学者受け入れ方針(アドミッションポリシー)を踏まえた選抜を行います。(後略)」
コロナは待ってくれないようです。
→前の記事【第2回 努力のプロセス、その言語化とは】