教えて!「教員免許更新制の廃止法に『付帯決議』?」

 教員免許更新制を廃止する法案が11日、参議院本会議で可決、成立しました。施行日の7月1日時点で有効な教員免許状は、自動的に「10年」の有効期限がなくなり、更新講習を受ける必要も当然なくなります。ところで衆参両院では、法案に対して「付帯決議」が行われました。どういうことなのでしょうか。

「教員免許更新制の廃止法に『付帯決議』?」

 成立したのは「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律」という、主に2本の法律と、関連法を一括で改正するものです。このうち更新制の廃止に関するのは教免法ですが、国会論戦では、特例法の方に焦点が当たりました。

 教免法上は、単に更新制の規定を削除する「廃止」ですが、法案提出の根拠となった中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」の審議まとめ(2021年11月)では「発展的解消」という言い方をしています。更新制の「発展」型として打ち出したのが「研修受講履歴管理システム(仮称)」で、特例法には、これに関係する規定を盛り込みました。任命権者の教育委員会が、教員ごとに研修記録を作成するとともに、資質向上につながる研修を受けるよう、指導助言を行うことを義務付けています。

 付帯決議には、法案の修正には至らないものの、政府が法律を執行するに当たって、国会として注文を付ける意味があります。今回の付帯決議は衆院が7項目参院が8項目から成っていますが、7項目の趣旨はほとんど同じです。

 その概要は▽指導助言は、教員の意欲・主体性と調和したものが前提で、十分に教員等の意向をくみ取って実施すること ▽オンデマンド型を含めた職務としての研修は、正規の勤務時間内に実施され、費用負担がないことが前提であること ▽教委は、教員の資質の向上につながり、子どもの実態に即して教員が必要とする研修を実施すること ▽多忙化をもたらすことがないよう十分留意するとともに、働き方改革の推進に向けて実効性ある施策を講ずること。教員から報告を求める場合には、負担増とならないように留意すること ▽研修記録は、校内研修・授業研究、勤務場所を離れて行う研修も記載対象とすること ▽研修記録の作成や指導助言は、人事評価制度と趣旨・目的が異なることを周知すること ▽教師不足を解消するためにも、免許状を失効している者が申し出て再度免許状が授与されることに広報等で十分周知を図るとともに、事務手続の簡素化を図ること――というものです。参院は、臨時的任用教員にも研修機会を確保するよう注文を加えています。
 
 いずれも当たり前のような話ばかりですが、逆に国会では、こうした点に懸念が集中したことを意味します。一方で、更新制の「廃止」によって資質向上がおろそかになるのではないか、という意見があったのも確かです。
 
 審議まとめでは、期待される水準の研修を受けているとは「到底認められない」場合、職務命令によって研修を受けさせることや、そうした職務命令に従わない場合には懲戒処分の対象にもなり得る、との考えも示していました。これに関連する規定は改正法にありませんが、文部科学省が夏ごろにまとめるガイドラインの内容が注目されます。

 そもそも審議まとめの論理は 、▽今後の教師には「新たな学び」が必要 ▽そのために、デジタル技術を活用した研修履歴システムを導入することが必要 ▽更新制はその「障壁」になるから、発展的な解消が必要だ――という構成になっています。中教審では異論は出なかったものの、運用面には注文も付きました。

 研修の充実には異論がないとしても、山積する教育課題に対応して次々と研修が降って来るようでは、働き方改革にも逆行しかねません。付帯決議を踏まえ、教員の主体性を尊重した研修の促進につながるようなガイドラインを示してほしいものです。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/