教えて!「大学の『文理横断・融合』って?」

 中央教育審議会が、大学で「文理横断・文理融合教育」の推進策を検討しているといいます。文理のバランスが取れた教育・研究の必要性は分かるのですが、高校としては、大学入試科目が増えて、カリキュラム編成や進学指導に影響が出ないかも心配になります。なぜ今、文理横断・融合なのでしょうか。

「大学の『文理横断・融合』って?」

 高等教育政策をめぐっては、2018年11月の中教審答申「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」に基づき、予測不可能な時代を生きる人材の育成、学修者本位の教育への転換などが図られてきました。一方、政府からは、教育未来創造会議の第1次提言(2022年5月)、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の「政策パッケージ」(6月)と、文理分断からの脱却や文理横断教育の推進に関する提言が相次ぎました。

 そうした流れを受けて、中教審の大学分科会は2022年5月の会合で「大学振興部会」の新設を決定。6月に初会合を開き、7月も2回目の会合が開催されました。

 初会合で紹介された経団連の「採用と大学改革への期待に関するアンケート」(2021年8~10月実施 )によると、大卒者に特に期待する知識(3つまで選択)としては「文系・理系を超えた知識・教養」が84.7%と最も多くなっており、「数理・データサイエンス・AI・ITに関する専門知識」が34.4%と3社に1社を占めたのも注目されます。

 初会合で、委員の益戸正樹・UiPath特別顧問(肥後銀行社外取締役)も「既に民間企業では、理数系的な要素を抜きにしては仕事ができない。『自分は文系だからできない』『数学が苦手』という方の採用は、厳しくなる」と指摘しました。文理横断・融合は、既に社会の要請だというわけです。

 部会の論点例にも、具体例として①文理横断・文理融合教育を通じて課題解決力等を涵養(かんよう)することを目的とした学部・学科(九州大学共創学部、広島大学総合科学部国際共創学科 ) ②文理横断・文理融合的な学問領域に基づく学部(長崎大学環境科学部、滋賀大学データサイエンス学部、中央大学国際情報学部等  ③リベラルアーツ系の学部・学群等での複数専攻(ダブルメジャー)、副専攻(マイナー)制(国際基督教大学、桜美林大学リベラルアーツ学群等) ④副専攻として既存学部にはない文理横断・文理融合型の教育プログラム(昭和女子大学データサイエンス副専攻プログラム、同志社大学サイエンスコミュニケーター養成副専攻等) ⑤一般教育・共通教育で数理・データサイエンス等に係る科目の必履修化(大正大学) ⑥理工系学部で学士課程から博士課程まで継続的・体系的なリベラルアーツ教育(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院)――を列記しています。

 第2回会合では、九大が共創学部について、金沢大学がSTEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育の必修化など、東洋大学の経済学部経済学科が数学必須入試の事例を、大正大学が共通教育科目の「探究科目」とデータサイエンス科目について、それぞれ発表しました。大学側の模索が、よく分かる事例です。

 高校でも、総合的な探究の時間や新科目「理数探究」に取り組む中で、文理横断の必要性を感じ始めているのはないでしょうか。そんな中、早くから生徒を文系・理系にコース分けし、「文理分断」意識を助長したままでは、大学進学後に困ることにもなりかねません。ましてや女子に文系を勧めるような「昭和」の進路指導のままでは、ジェンダーギャップ解消が課題になっている時代に反することになってしまいます。

 初等中等教育をめぐっても、2021年1月の中教審答申が「文理の枠を超えて教科等横断的な視点に立って進めること」を求めています。大学が動き出した今、高校側には早急な意識の転換が迫られていると言えるでしょう。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/