教えて!「統廃合や学部再編で大学はどうなる?」

 政府が、大学で理系を専攻する学生を現行の35%から「5割程度」に引き上げるための工程表を公表しました。資料の中には「大学等再編促進」とあって、どきりとします。私立大学の半数近くが定員割れを起こしている、というニュースもありました。大学はこれから、どうなるのでしょう。

「教えて!統廃合や学部再編で大学はどうなる?」

 工程表は、5月にまとまった教育未来創造会議の第1次提言を、今後10年かけて実行に移すためのものです。2022年度、23年度、24~26年度、27~31年度と4段階で取り組むこととしており、関係省庁の役割も示しています。

 理系学生を5割程度にするという目標は、「世界トップレベル」を目指すためです。ただし、既存学部だけで考えているのではありません。デジタルやグリーン(脱炭素)など成長分野への再編を想定しています。しかも、学部・大学院を通じて「文理横断教育」を推進しようというのです。

 中央教育審議会の大学振興部会が「文理横断・融合教育」の推進策を検討していることは、以前この欄で紹介しました。同部会は9月14日、これに続く二つ目のテーマとして「出口の質保証」の審議を始めました。

 これらは一見、関係ない動きのようにも思えます。しかし大学界が置かれた環境を併せ考えると、すべてが関連してきそうなことが垣間見えます。

 8月に公表された文部科学省の22年度学校基本調査(速報)によると、学部の学生は263万2千人と過去最多になりました。大学数も、4校増の807校となっています。しかし、主な入学年齢である18歳人口(21年度は約114万人)は年々減っており、25年度にいったん落ち着くものの、30年度以降は本格的な減少局面に入り、35年度には100万人を割ると推計されています。

 未来創造会議の第1次提言では、社会人の学び直し(リカレント教育)促進も提言しています。大学が今後、主な教育の対象を若年者から成年にシフトするようなビジネスモデルを確立できれば別ですが、それに対応できない大学は、学生集めに苦慮し、経営が厳しくなることは必至です。

 もう一つ気になる動きとして、文科省のパブリックコメント(意見公募手続)で、既設学部等の収容定員充足率が50%を下回る大学には、25年度分から学部の設置認可を認めない方針が示されました。第1次提言と照らし合わせれば、そうした大学が生き残り策として成長分野に学部改組しようとすることは許さない、やるなら他大学との統廃合を考えよ、ということになるでしょう。

 日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)の調査によると、22年度に入学定員充足率が50%を割った大学は13校で、前年度の7校から増えました。50%台には17校、60%台には35校が控えており、統廃合の「予備軍」は決して少なくないと言えるでしょう。

本格的な統廃合による入学定員の削減が進むまでは、18歳人口の減少に伴って、それだけ大学はますます「入りやすく」なります。そこで中教審は、出口=ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針、DP)の見直しで「出にくい」大学を目指そうとしています。DPの見直しは、カリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施の方針、CP)、アドミッション・ポリシー(入学者受け入れの方針、AP)に順次、影響を与えます。入試段階で学力の担保が難しくなっている以上、大学で教育を受けるために必要な基礎学力は高校までにしっかり付けてほしい、という要請が強まるのは必至でしょう。

 そんな状況の中で、高校はいつまでも、2年次から文理分けをして入試対策を強化するような教育課程編成や進路指導を続けていて、いいのでしょうか。たとえ大学入試にパスしても、入学後の厳しい教育で進級や卒業に苦労するのは、生徒たちです。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/