教えて!「教員の処遇改善で『論点整理』って?」

 文部科学省の有識者会議が、公立学校教員の処遇改善を巡って論点を整理したといいます。報道では教職給与特別法(給特法)の見直しや新たな手当の創設などの案が紹介されていましたが、方向性は今後どうなるのでしょうか。

教えて!「教員の処遇改善で『論点整理』って?」

 4月13日に「論点整理」をまとめた会議の正式名称は「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会」と言います。昨年12月に発足し、この日が4回目の会合でした。冒頭、詳細な論点整理案を示して了承され、役割を終えました。

 学校の働き方改革や処遇の在り方をめぐっては、2019年1月に中央教育審議会が答申をまとめています。その際、提言に沿って改革を進めた上で、改めて教員勤務実態調査を行い、なお改善できなかった部分について再検討しよう、ということになりました。その22年度勤務実態調査は、5月にも速報値が公表される見通しです。今回の論点整理は、実態調査が出た後に中教審で再検討を行うためのものです。

 そうした背景があるため、どうしても論点整理は総花的にならざるを得ません。永岡桂子文部科学相も14日の定例記者会見で、記者から給特法の廃止という論点が入っていないことを問われて「調査研究会は、情報収集とか論点整理を目的とするもの。何らかの結論を得るものではなく、現時点で決まっていることはない」と明言しています。

 ただ、必ずしも中教審でフラットに議論できるものではなさそうです。自民党では昨年11月、萩生田光一政調会長(元文科相)の肝いりで「令和の教育人材確保に関する特命委員会」が設置され、検討を進めています。さらに岸田文雄首相は今年2月に埼玉県戸田市の学校を視察した折、6月に閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」に処遇改善策を盛り込みたい考えを表明しています。つまり政府・与党で何らかの方向付けを行った上で、中教審での検討に入ることになるとみられます。

 そもそも仮に教職調整額の率(給料月額の4%)16年度勤務実態調査の結果に合わせて引き上げるだけで1兆円を超えるという試算も当時、示されていました。しかも、これは国庫負担のある義務制の学校に限った話です。地方交付税で措置される高校は、16年度調査の対象ではありませんでしたが、22年度は対象に入っています。速報値を見なければ何も始まりませんが、軽々に給特法廃止とは言えそうにありません。

 そんな限界のある今回の「論点整理」ですが、8ページにわたる提言をよく読むと、かなり踏み込んだ部分も散見されます。例えば ▽時間外手当にした場合、学校ごとに「36(サブロク)協定」(労働基準法第36条に基づいた協定)を締結することになれば、管理職の大きな負担となり得る ▽民間労働者には時間外勤務の割増賃金のうち月60時間を超える分の支給に代えて有給休暇を与える制度が導入されている―などの指摘です。また「現行制度よりも一層柔軟に学級編制ができる仕組みとすること」「標準授業時数の取扱いも含めた教育課程や学習指導の在り方を見直すこと」に言及しているのは、教員の勤務や処遇、働き方が今後、教職員配置や教育課程とセットになって議論される可能性が高いことを示しています。

 これらは直接的には、公立学校に限った話です。ただし論点の一つに「私立や国立の学校と公立学校が担う役割にはどのような差異があるのか」も掲げています。設置者を問わず、自発性・創造性に基づく専門性を持った勤務の特殊性を踏まえ、それにふさわしい勤務や処遇はどうあるべきか、議論が深められることを期待したいものです。

参考)
https://souken.shingakunet.com/secondary/2023/01/post-23.html


【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/