教えて!「生成AIガイドライン、どう受け止める?」

 文部科学省が7月4日、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」をまとめました。夏休み前の提出課題に備えるため急きょ作成したということで、学校でも対応に追われました。しかし新技術が登場するたびに新たなマニュアルが出てきては、現場の多忙化に拍車を掛ける恐れもあります。そもそも人工知能(AI)自体、よく分かりません。どう考えればいいのでしょうか。  

 マニュアルの側面に注目するより、まずはガイドラインのタイトルにある「暫定的な」という修飾語、さらに表紙にある「Ver(バージョン)1.0 機動的な改訂を想定」とあることに注意が必要です。

 確かにガイドラインは、夏休み前に急いだ側面はあります。ただ、AI技術そのものが日進月歩です。パイロット校などで先進的な使い方をすることで、新たな課題が見つかるかもしれません。最初から完璧を目指すのではなく、場合によっては短い時間で改善を繰り返すことも想定しておく――。それが、政府全体で推進している「アジャイル(機動的)型政策形成」というものです。だから、すぐにVer1.1、1.2……と出てきてもおかしくありませんし、いずれVer2.0、3.0……と更新されることでしょう。

 もっと重要なのは「本ガイドラインの位置づけ」という章で、生成AI自体が「黎明期」にあると指摘していることです。

 生成AIは、会話するように指示を出せば、自然な文章や画像などを自動的に生み出してくれます。専門家にとっては既知の技術でしたが、昨年11月に米オープンAI社が「ChatGPT(チャットGPT)」を公開したことで、世界中に大きなインパクトを与えました。政府全体で積極的な対応を行う方針を決める一方、5月に行われたG7教育大臣会合では「教育に与える正負の影響を見極める」とされたのも記憶に新しいところです。

 チャットGPTやBing Chat、Bardなどサービスが始まっている生成AIは、いずれも「成年」「18歳未満は保護者同意が必要」など子どもに配慮した利用規定があります。逆に言えば、生徒が在学中に成年年齢を迎える高校では、消費者契約などと同様、対応が急務だということです。

 こうした指導を負担に思う向きも、学校現場が多忙化する中では無理もありません。しかし生成AIの利用は、生産性の向上に欠かせないものとして企業や官公庁でも全面的に導入するところが続出しています。大学も含めて社会全体で利用が当たり前になる時代がすぐ迫っているのですから、高校でも否定的な姿勢ばかりではいけません。

 何より、ガイドラインは「マニュアル」なのでしょうか。「生成AIの教育利用の方向性」の章では、基本的な考え方として ▽学習指導要領は「情報活用能力」を学習の基盤となる資質・能力と位置付け、情報技術を学習や日常生活に活用できるようにする重要性を強調している ▽生成AIがどのような仕組みで動いているかという理解や、どのように学びに生かしていくかという視点、近い将来使いこなすための力を意識的に育てていく姿勢は重要である――と説明しています。つまり生成AIへの対応も情報活用能力の育成の一環であり、生徒が卒業しても日進月歩の技術革新に対応していこうという力を育てることが求められているのです。

 それでも生成AIとは何かよく分からず不安だ、という人は少なくないでしょう。実はガイドラインには、生成AIの仕組みや課題についてもコンパクトにまとめられています。単なるマニュアルや「べからず集」と捉えるのではなく、生成AIを知るきっかけとしてはいかがでしょうか。何より、教員の仕事も省力化してくれるかもしれません。逆に、機械に任せてはいけないこと、人間がすべきことも、見えてくるのではないでしょうか。

【参考記事】
https://souken.shingakunet.com/secondary/2023/05/ai.html

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/