教えて!中教審WGが提起した『教育改革』とは?

 「小中授業5分短縮 文科省検討」(読売新聞10日朝刊)、「公立校教員の給与改善 議論始まる」(朝日新聞15日朝刊)――。国の方では、さまざまな教育改革論議が始まっているようです。しかし高校現場は日々の業務に追われるだけでなく、2024年度の新学習指導要領「完成年度」への対応と2025年度「新課程入試」に向けた準備も加わって、動向を追うどころではありません。今どうなっているのでしょうか。

  注目すべき文書が昨年末、公表されました。中央教育審議会の初等中等教育分科会「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」(学校教育特別部会)「義務教育の在り方ワーキンググループ(WG)」の中間まとめです。会議体名を聞いて「あれ、高校には関係ないんじゃないの?」と思う方も少なくないでしょう。確かに特別部会には「高等学校教育の在り方WG」が別に設置され、昨年9月に中間まとめを行っています。

現在、中教審の初中分科会に限っても、学校教育特別部会をはじめ ▽質の高い教師の確保特別部会デジタル学習基盤特別委員会――などが専門的な議論を本格化。中教審以外でも「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」が議論を重ねており、今春にも各会議体から相次いで諸改革の方向性が示されそうです。

そこで注目されるのが、義務WGの中間まとめです。不登校対策や学校施設の質的改善なども含め、これら学習基盤に関わる専門的な検討を「一体的」に深め、しかもそれを「次期学習指導要領の改訂の検討」とも連動して進めることを提言したのです。

そうした役割は本来、義務WGの「親部会」である学校教育特別部会が担うものです。2022年1月の初中分科会で決定した特別部会の設置目的には「多様かつ専門的な見地から横断的に議論し、検討内容を必要な施策に結び付けていく」とされていました。実際には義務WGが、学校教育の改革全体を先導しているというわけです。

一体的検討の背景には、何があるのでしょうか。例えば「学校の働き方改革」一つ取っても、2019年1月の中教審答申が提起した「学校・教師が担う業務に係る3分類」に基づく役割分担・適正化が進められてきたはずですが、2022年度教員勤務実態調査でも依然として長時間勤務が改善されていないことが明らかになり、教師確保特別部会が昨年8月に「緊急提言」を出すほどでした。つまり単独で働き方改革に取り組んでも、実効性は上がらなかったわけです。他の改革も同様です。

そこで、新型コロナウイルス禍のさなかに出された答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」(令和答申)の延長として、学校そのものの在り方を再確認・再検討した上で、諸改革を連動させようというわけです。1月の初中分科会と学校教育特別部会の合同会議で義務WG中間まとめを報告した主査の奈須正裕・上智大学教授は「(近代の)学校は、たかだか150年の歴史しかない。少なくとも、現在の在り方が未来永劫このままで続くはずはない」と指摘しました。

そうなると、また学校現場には大きな改革が「降ってくる」のでしょうか。そうとも限りません。高校では既に、スクール・ミッション/ポリシー改革が進行しています。中教審の荒瀬克己会長(教職員支援機構理事長、元京都市立堀川高校長)は次期も高校の指導要領を大きく変える必要はないという持論を早くから披露していました。むしろ個々の高校で進めている現在の改革に障害があるなら、条件整備を国や設置者に求めるといった積極的な姿勢が求められそうです。

参考:2023年6月20日投稿 教えて!「今後の処遇・定数、働き方はどうなる?」

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/