教えて!「今後の処遇・定数、働き方はどうなる?」
6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2023」に、教員の処遇改善策などが盛り込まれました。5月には中央教育審議会に諮問もありましたが、教職給与特別法(給特法)の廃止を主張する向きもあります。今後どうなるのでしょうか。
骨太方針2023では、教育に関する記述が前年に比べ大幅に増えました。文部科学相も経験した萩生田光一・自民党政調会長の意向が強く働いたといいます。とりわけ「国策として推進する」GIGAスクール構想とともに注目されるのが、教師の「働き方改革の更なる加速化、処遇改善、指導・運営体制の充実、育成支援」の一体的な推進です。
改めて経緯を振り返っておきましょう。もともと働き方改革は、6年ぶりに実施した22年度教員勤務実態調査に基づき再び議論することになっていました。同年11月には萩生田政調会長を委員長とする党特命委員会が発足。12月には文部科学省が「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会」を発足させ、23年4月に文字通りの「論点整理」をまとめます。
萩生田特命委が5月16日に「令和の教育人材確保実現プラン」をまとめるのを待って22日、永岡桂子文部科学相が中教審に「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」を諮問。具体的には ▽勤務時間の上限ガイドラインの実効性を高める仕組み ▽教職調整額と超勤4項目の在り方 ▽職務の特殊性に対する考え方 ▽時間外勤務手当の支給に対する考え方 ▽意欲や能力の向上に資する給与制度やメリハリの在り方 ▽子どもや学校、地域の実態に応じた柔軟な教育活動の実施の在り方 ▽支援スタッフの配置の在り方――などの検討を求めました。近く「質の高い教師の確保特別部会」が初会合を開く見通しです。
改革論議には今後も、萩生田特命委の意向が強く働くものとみられます。党「実現プラン」では、教職調整額を「少なくとも10%以上に増額」することや、新たな級の創設、学級担任手当の創設や諸手当の改善などを提言しています。
既に終了した文科省研究会は、総花的に論点を整理しながらも、給特法そのものの存廃には触れていません。あくまで残業代への切り替えではなく、働き方改革をいっそう進めることで勤務時間の抑制を進めるとともに、教職調整額や諸手当の改善によって「メリハリ」のある処遇改善を検討するものとみられます。
22年勤務実態調査は、参考値として高校も対象に加えたのが特色です。10・11月の1日当たり平均勤務時間数は、教諭で平日10時間6分、土日2時間14分と、平日は中学校より約1時間短くなっています。他に仕事の持ち帰り時間が、平日29分、土日46分あります。
教員の処遇を巡っては、どうしても国庫負担制度がある公立小中学校が主な議論の対象になりがちです。全額が地方交付税で措置される公立高校は、義務制に準じる形のため、独自の事情は考慮されにくいのが実情です。教職員定数改善も、単年度の積み上げがある義務制に対して、置いてきぼりの格好です。全教職員を挙げて総合的な探究の時間などに取り組む高校も少なくない中、ますます実態とかけ離れてしまいかねません。
文科省研究会の論点整理には「私立や国立の学校と公立学校が担う役割にはどのような差異があるのか」という論点も入っています。国私立学校は労働基本法に則って残業代が支給されるはずですが、いまだに公立に準拠して教職調整額相当を続けている高校も少なくありません。
骨太方針に「安定的な財源を確保しつつ」という条件が付いているのも気になります。財源不足のため、すずめの涙ほどの手当を一部教員に支給することで「メリハリ」とする……などという中途半端な改革には終わらせないでほしいものです。
【参考】
https://souken.shingakunet.com/secondary/2023/01/post-23.html
https://souken.shingakunet.com/secondary/2023/04/post-36.html
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/