教えて!指導要領の改訂に向けた『論点整理』とは?

 文部科学省の有識者検討会が、論点整理をまとめたといいます。先月の段階では一部の「骨子案」だったというのに、少し早い気もします。どんな内容なのでしょうか。今後の改訂スケジュールは、どうなるのでしょうか。

 17日に開かれた「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」の第15回会合では、六つの柱すべてに箇条書きで内容を記した論点整理案が示され、修文を天笠 茂座長(千葉大学名誉教授)に一任して1年9カ月に及ぶ検討を終了。翌18日、正式な論点整理が同省ホームページで公表されました。

 最終会合では座長一任を受け、文科省を代表して望月 禎・初等中等教育局長があいさつし「いずれそう遠からず次の指導要領に関する議論も専門的に始まる」と明言しました。前回改訂(現行指導要領)を10年後ろ倒しにすると仮定すれば、年内にも中央教育審議会に改訂を諮問し、2年間の審議を経て2026年末に答申。高校の次期指導要領は28年に告示、29年度から先行実施、32年度入学生から全面実施となりそうです。

 先月の本欄で紹介した通り、次期指導要領でも現行指導要領のコンセプトが引き継がれる見通しです。ただし資質・能力には「理解のブレ」が見られるとして、「知識及び技能」や「学びに向かう力、人間性等」について更に整理すべきだと指摘しました。さらに、三つの柱と ▽教科固有の見方・考え方 ▽主体的・対話的で深い学び ▽習得・活用・探究 ▽21年1月の中教審答申(いわゆる令和答申)で提起された「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」――などの関係が分かりにくいことも認め、整理して示すよう求めています。

 学習の基盤となる資質・能力を巡っては、特に情報活用能力を教育課程全体だけでなく各教科等での具体的な充実方策も検討して「情報活用能力の向上とそれによる探究的な学びの充実を一体的に考えていくべき」だとしています。各教科等での探究活動と総合的な探究の時間を関連付けることが、いっそう求められることになりそうです。
 各教科等の目標・内容に関しては ▽単なる個別知識の集積ではない深い意味理解を促すこと ▽学ぶ意味や社会とのつながりの更なる明確化――の必要性を強調。「中核的な概念や方略を中心にして分かりやすく一層構造化すること」を検討すべきだとしました。学校種や学年を見通した上で、大幅な整理も行われそうです。
 学習評価については、現行指導要領下で高校にも観点別評価が導入されましたが、小中学校を含め「毎回の授業で3観点全てを見取らないといけないといった誤解」などから「教師・子供にとって息苦しくなっている場合もある」との見方を示し、▽学習評価の観点や頻度の在り方 ▽形成的評価と総括的評価の効果的な使い分け――を検討するよう求めています。

 高校の全日制・定時制・通信制を巡っては「組み合わせて実施したいというニーズもある」ことから、課程区分やその一体的運用の在り方を検討すべきだとしています。デジタル学習基盤の整備も背景に、課程間の垣根が低くなる可能性があります。学校段階間の連携・接続では「高大接続の観点」が検討課題に入っていることも注目されます。

 現行指導要領の趣旨が必ずしも正しく浸透していないとの反省を踏まえ、中教審の審議状況を分かりやすく積極的に発信しながら、改訂プロセスを通して趣旨や内容を共有することも提案しています。ということは、審議段階で教育現場から声を上げていく余地も出てきそうです。いつまでも改訂に受け身のままで、いいのでしょうか。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/