カレッジマネジメント Vol.217 Jul.-Aug. 2019

大学改革と新時代のガバナンス

編集長・小林浩が語る 特集の見どころ

重要なのはガバナンス改革だけでなく、マネジメント力の向上

大学の経営は、よく「タンカーの舵取り」に例えられる。船長が右に舵を切ろうと思っても、実際に方向を変えるまでに結構な時間がかかってしまうためだ。社会の環境が大きく変化する中で、教育・研究両面での大学改革への期待が高まっている。その一方で、大学改革のスピードが社会の変化に追いついていないのではないか、遅々として進んでいないのではないかという“苛立ち”の声があるのも事実である。

 大学改革を推進するためには、意思決定のスピードを上げていかなければならない。そのための権限と責任のあり方を見直すガバナンス改革が議論されている。ガバナンスとは、権限と責任を明確にした統治の仕組みであると言われている。日本の大学、特に私立大学では、意思決定の仕組みが複雑で多様であり、これが外部からの分かりづらさにもつながっている。さらに昨今の私大の経営危機や、一部の大学における経営陣の不祥事等がメディアで大きく報道され、社会からの透明性を高める声が高まっていることも、ガバナンス改革のさらなる後押しとなっていることは否めない。

 企業においては、2001年に米エンロン社の粉飾決算による不正会計、いわゆるエンロン事件に端を発した不祥事が相次いだことから、米国全体でコーポレート・ガバナンスのあり方が問われ、翌2002 年のサーベンスオクスリー法(SOX法)の制定につながった。これを受け、日本でも経営の健全性や透明性を高める目的で、コーポレート・ガバナンスの議論が進められ、社外取締役や委員会設置会社を導入する企業が増えた。近年検討されている大学のガバナンス改革も、こうした取り組みをベースに検討が進められているように思える。しかし、様々な改革を経た企業のコーポレート・ガバナンスが全てうまく行っているかというと、必ずしもそうとは言えない現状がある。大学は、コーポレート・ガバナンスを参考にしながらも、大学の形態に合った形のガバナンスを模索していく必要がある。いったい企業と大学におけるガバナンスにはどのような違いがあるのか。そうした観点から、本誌では企業の経営者としてコーポレート・ガバナンス改革を経験した、民間出身の大学経営者との座談会を行った。

 来年4月より施行される私学法の改正では、学校法人の自律的なガバナンスの改善・強化が明記され、中期計画策定の義務化や理事に対する牽制機能が強化される。また、財務情報についてはインターネット等による公表が義務付けられ、経営情報の透明性の確保も求められることになる。ここで重要なのは、“学校法人の自律的な”改善という点である。今後、18歳人口減少に伴う経営状況の悪化や、社会の変化に対応した教育の質保証等が求められる中、大学が主体的、自浄的に改革を進めなければ、今後ますます外部からの圧力は高まってくることが予想される。

 そうしたことから、大学改革を推進するドライバーとしてのガバナンスのあり方とはどのようなものなのかを明らかにしたいという思いで特集を組んだ。大学改革が進んでいると言われる大学を取材すると、ガバナンスとマネジメントが両輪としてうまく機能しているということが分かった。ガバナンスが権限と責任を明確にする統治の仕組みだとすれば、マネジメントは改革を推進するための組織風土や仕組みづくりと言えるだろう。いくら良いガバナンスの仕組みを入れたとしても、大学のミッションやビジョンを実現していくための教育・研究について、教職員が一体となった取り組みがなければ大学改革は実現しない。大学経営で最も重要な資源はやはり“人”であり、改革を推進するのも“人”である。

 そして、大学は社会の公器でもある。そのため大学が将来にわたって生き残っていくためには、内向きの議論だけでなく、学外に向けた透明性を確保することが重要になってくる。本学が社会から信頼され、必要とされる大学になっているかどうか、これを常に検証し、改善向上していく仕組みづくりこそが求められているのである。

リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩