専門学校のいまとこれから

 文部科学省は先ごろ、「これからの専修学校教育の振興のあり方検討会議」を発足させました。同省の高等教育改革といえば、どうしても大学改革に注目が集まりがちですが、専門学校(専修学校専門課程)も含め、今なぜ専修学校の検討なのでしょうか…?


教えて!「専門学校のいまとこれから」

   専門学校といえば、社会のニーズに即応した職業人の育成が大きな強みです。1999年度以降は進学率も20%を超え、高校生の有力な進学先としての地位は不動になっています。一方で、4年制大学への進学率は99年度の38.2%から2015年度は51.5%と10ポイント以上も挙がっており、相対的には専門学校への注目度は低下しているかもしれません。

 さらに中央教育審議会では、実践的な職業教育に力を入れる新たな高等教育機関を大学体系に位置付ける検討が大詰めを迎えており(名称は「専門職業大学」「専門職大学」などを検討)、既存の大学・短大はもとより、専門学校からの移行が想定されています。

 そうした中でも、専門学校については、今日的な重要性が指摘されています。
 まずは、高卒者が社会で活躍できる力を付けさせるための、セーフティーネットの役割です。専門学校は2年制が基本で、しかも学費は私立大学に比べれば若干低く設定されているのが通例です。経済的に大学は無理でも、地元の専門学校なら何とか通える…という理由で専門学校を選んでいる高校生も少なくありません。家庭の年収が300万円以下の学生の割合は、大学生の7.9%に対して、専門学校は17.9%。そのうち4人に1人が、授業料も生活費も本人が負担しています。


 そうして頑張って卒業すれば、もともと教育が地域産業の要請に応じて設定されていることも多いため、地元就職に強くなっています。地元就職率は大学に比べ格段に高い県が多く、例えば富山県では、大卒の43.0%に比べ、専門学校卒は90.4%に上ります。

 さらに、もっと勉強したいと思った時には、大学に編入学する道も開かれています。2015年度の編入学者数は全国で1758人(修了生の0.75%)ですが、ピーク時の2007年度には2709人に上っていました。修業年限が4年以上の課程の場合は大学院への入学資格が与えられる学校もあり、2014年度は276人が進学しています。

 近年のもう一つの注目点が、「社会人の学び直し」機会を提供する機関としての役割です。文科省によると、2014年4月時点で、高等教育機関で学び直しを行っている約11万6千人のうち、専修学校が約6万人と半数以上を占めています。このうち専修学校の附帯事業として職業訓練などの講座に通う人が、4万人を超えます。政府は成長戦略の一環として大学などにも社会人の受け入れを拡大するよう検討していますが、働きながら大学や大学院に通うのは、相当ハードルが高いのも事実です。既に実績のある専門学校に対する期待は、今後ますます高まっていくことでしょう。

 リクルート「進学センサス2013」によると、進学するメリットは、大学進学者が「将来の選択肢が広がる」「学生生活が楽しめる」といった「『可能性』+『キャンパスライフ』」型であったのに対して、専門学校進学者は「特定の業種・業界に就職しやすい」「手に職をつけられる」「そこでしか学べない内容がある」といった回答も多い「『業種・業界』『手に職』+『そこでしか学べない内容』」型であることが浮き彫りになっています。進学する目的意識や学びたい分野が明確な高校生にとって、今後とも有力な進学先で在り続けることは間違いありません。

 一方、文科省が設置を認可する大学と違って、都道府県が所管する専門学校には国からの助成が得られず、授業料減免などの学生支援策を講じようとしても、自治体の補助金額などによって差が生じているのも現状です。期待される役割が高まる分、手厚い支援策の充実も期待されます。

 進路指導でも今後、新たな高等教育機関が選択肢に加わることも含め、将来の学び直しをも展望したキャリアプランを持たせることから、家庭の経済状況という現実まで、きめ細かな配慮の下、生徒の主体的な進路選択を促すことが求められそうです。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/