興味・関心から主体的に問いを設定し、広げ、深める力を育成/福井県立若狭高等学校

2022年度の現行学習指導要領の施行とともに高等学校で始まった「総合的な探究の時間」。各校はどのようにカリキュラムを作り、生徒を伸ばしているのか。実践事例として2011年度より探究学習に取り組んでいる福井県立若狭高等学校を紹介する。取り組みの詳細を渡邉久暢校長に伺った。
- 福井県小浜市にある1897年創立の県立高校。全日制普通科、文理探究科(2年次より理数探究科、国際探究科)、海洋科学科、定時制普通科からなる。1学年あたりの定員は、全日制普通科140名、文理探究科、海洋科学科各60名、定時制普通科30名(2026年度)。
- 2011年度よりSSHの指定を受け、以来、探究学習のカリキュラムを開発。身の回りの地域資源を素材に問いを設定し探究する地域資源活用型探究学習に取り組んでいる。
- 生徒が自身の興味・関心から問いを設定し、他者との協働や科学的・数学的な検証、内省等により粘り強く問いを磨き続けられるよう、カリキュラム改善を重ねている。

個人の興味・関心を言語化し、他者・学問・社会につながる問いにつなげていく
福井県立若狭高等学校(福井県小浜市)は、2011年度にスーパーサイエンスハイスクール(以下、SSH)の指定を受けて以来、身の回りの地域資源を素材に問いを設定し探究する地域資源活用型探究学習に取り組んでいる。
長年の探究学習を通じ同校が一貫して育成を目指しているのは、主体性を持って問いを設定し、広げ、深める力である。
「問いを立て、情報を集め、分析・考察するという探究学習のプロセスを進めるうえで最も重要なのは主体性です。ワクワクや楽しさから心のエンジンが働いていなければ、生徒は前に進みません。他方で、多くの生徒は自分の中にある興味・関心や違和感の種を自覚できていないため、それらをどのように気づかせて言語化し、他者・学問・社会につながる問いへと育てていくか。その仕組みを作り、教員が支えることに注力してきました」と渡邉氏は話す。
この「興味・関心や違和感の種に気づき、言語化して社会的な問いにつなげていく」というプロセスを、同校では1年次に探究に必要な知識や手法を学びながら1年間かけて進めていく。そして、2年次を問いに向き合い、探究活動を繰り返して問いを広げ、深めていく期間、3年次はその成果を発信し、探究活動に磨きをかける期間としている(図)。
図 若狭高校の探究学習の3年間の流れ

問いを広げ、深めていった2名の生徒の実践例
実際に、自身の興味・関心を出発点に、実践や対話、検証を重ねながら問いを広げ、深めていった2名の生徒の取り組みを見ていただきたい。国際探究科の山下惺也さんと宮田あいささんだ。
山下さんは、「近世の城郭」という自身の好きなものを出発点に、より多くの人に城郭の魅力を知ってもらうべく地元の小浜城跡の魅力発信に挑戦。1つ実践するごとに新たな課題を発見し、その解決に向けて次の実践に挑戦した。

小浜城の魅力を発信していくにあたりまず行ったのが、周囲の人々へのインタビューです。そこで得た情報を考察し、最初に行ったのが、「千年先に残したい福井県のもの・こと」を記事にまとめた「ふくい千年文化手帳」を作る県のプロジェクトに参加し、小浜城跡の取材記事を掲載することでした。
記事掲載は叶いましたが、課題に感じたのが効果を正確に把握できないことです。そこで、次の取り組みとして、石垣を作る工程の一つである石割りの見学イベントを企画しました。そして、実施後の参加者アンケートから小浜城跡を小浜市のシンボルとして誇りに思っている方々の存在を知り、自分も同じ気持ちであることに気づいたことから、活動目的を地元のお城に誇りを持ってもらうことや、小浜城跡を地元のシンボルにすることに変更。次の取り組みとして県主催のお城フェスに出展して小浜城跡での現地解説に挑戦しました。
そこで得た気づきが、お城フェスに来場するようなお城好きの人達以上に、まだお城に興味を持っていない地元の人達にアプローチすることの重要性です。そこで、市内の小学校への出前授業を企画・実施したところ、想定以上に子ども達から積極的に質問を受け、小学生を対象にした発信に可能性を感じました。大学進学後もお城について研究しながら、小浜のお城を誇りに思ってもらえるよう魅力を発信する活動をしていきたいと思います。
高校での探究学習を通じて、自分の行動力や考察力が大きく変化しました。助言者として関わってくださった大学の先生が、一つ実践する度に次の行動について考えることを意識させてくださったことで、アンケートに想定と異なる反応があればその要因を分析し、改善策を考えたうえで次の実践を進められるようになりました。
宮田さんは、中学時代の探究学習に対する自身と妹の認識の違いから探究学習のあり方について課題を見いだし、探究を重ねた。

中学校での探究学習を通じてワクワク感が高まった自分と、探究学習を「楽しくない」と話す妹にギャップを覚えたことから、中学生が将来にわたって主観的ウェルビーイングの高まりを実感できるような探究学習の環境について個人で探究することにしました。
母校の探究学習の授業見学や先生へのヒアリングを経て「先生の伴走の仕方」にフォーカスを当てることとし、母校の中学生への深掘り取材と生徒全員を対象にしたアンケート調査を実施。ウェルビーイングを構成する要素として提唱されている「PERMAモデル」をもとに回答を分析し、探究学習の促進条件と阻害条件を整理しました。
そこから先生の伴走に重要な要素として抽出したのが、「自己選択」「見通し」「協働」「成長実感」の4つです。これらを「SPGCモデル」と名づけ、今後、母校の先生達に提案する計画です。
当初は、「高校生の私がこのテーマに取り組む意味があるのか?」「対話・分析・考察を繰り返すような地味な探究に価値があるのか?」と悩む時期もありましたが、先生との対話を通して、自分なりにテーマや取り組みの意味を捉え直し、探究を続けることができました。
生徒が自身の問いを広げ、深めていくための仕組みの一つとして、教員だけでなく、地域の人々や外部の専門家と共に考える機会をコンスタントに設けていることが同校の特徴と言える。例えば、問いの設定に向けては地域の行政や企業、水産業に携わる人々から地域や産業の現状や課題について聞き、共に考え合う「地域の方々と創ろう」、探究活動を繰り返す段階では大学教員や企業・地域の専門家等から研究内容や探究の過程に対する助言を受ける「探究協働会議」「テーマ助言会」等の機会が設けられている。
その背景を渡邉氏は次のように説明する。「生徒の興味・関心を面白がる大人がいるからこそ、生徒は主体的に動き始めます。生徒の挑戦を教員が支え続け、地域や大学、企業の方々が生徒の問いの深化に深く関わり、共に考えてくださることで、生徒達は主体性を持ってやりたいことをできる限りの創意工夫で取り組むことができる。そうして失敗しながらもワクワクする気持ちを持って探究した生徒達は、自分の興味・関心を育てたうえでそれを地域や世界につなげることができる力を持って卒業していますし、進路先でも指示を待たずにアイデアを持って試行錯誤できると考えています」
また、日々の各教科の授業においても、生徒同士の対話や相互助言を教員が促しており、生徒の自身の考えを言語化する力が鍛えられていることが見て取れた。さらに同校では、各教科で身につけた知識や見方・考え方を探究で活用し、探究で生まれた問いを再び教科や学問の学びへ戻していくという往還を大切にし、各教員が授業設計や指導を行っているという。
検証可能な仮説を設定し、適切な方法で検証する力の育成を強化
併せて現在、同校が力を入れているのが、検証可能な仮説を設定し、適切な方法で検証する力の育成である。そのために、各学科の1年次の探究科目の内容を見直し、仮説を検証する力の育成に資するものに改善するとともに、統計の基本やデータ解析手法を学ぶ学校設定科目「データサイエンス」「データ解析論」を2025年度より設けている。
例えば、文理探究科1年次の「探究科学Ⅰ」では探究の基礎と科学の基礎について学ぶが、科学の基礎を学ぶ授業では、教員が提示した課題について生徒が仮説とそれを検証するための実験計画を立て、実験を行う。ある時間には「白い粉を特定しよう」という課題のもと、食塩、スクロース、二酸化珪素、炭酸水素ナトリウム等6種類の「白い粉」を前にどの粉がどの物質かグループごとに特定を試みるという授業が行われていた。事前に与えられた情報は6つの物質名のみ。担当教員はあえてヒントを示さず、生徒達がGIGA端末を活用しながら同定方法を検討する様子等から生徒の思考を見取り、必要に応じて問い返しを行う形で生徒達の気づきや思考を促していた。
2年次の探究活動も含めて、教員の役割について渡邉氏は次のように話す。「生徒達は、教員が適切な足場を作り、その状況を見取りながら関われば、やや難しい課題にも挑戦し、自分達で高みに向かうことができます。その際、どこまで支え、どこで問い返し、どこから任せるかについて生徒一人ひとりをよく見て判断することが教員の役割で、発揮すべき専門性だと考えています」
「良い問いとは?」を追究しカリキュラム改善を重ねていく
十数年にわたり探究学習のカリキュラム開発を続けている同校。地域・行政との連携や校内での教員コミュニティーの構築等、様々な取り組みの積み重ねを経て「ようやく探究学習が学校文化として根づいてきた」と渡邉氏は話す。
現在もカリキュラムや授業改善に余念はなく、全校教員研修を年数回実施。2025年度からは教員研修への生徒の参加も募り、忌憚のない意見を改善に生かしているという。また、理工系分野の研究者としての素養を持つ生徒をより多く育成するべく、2026年度から大学院博士後期課程に在籍する卒業生をSSHの運営指導委員の一人に迎えたとのことだ。
そして、引き続き取り組むのは、問いの質を高めるためのカリキュラム改善だ。「『良い問いとは?』は永遠のテーマですし、生成AIによって答えらしきものが容易に得られる現代においては、なおさら質の高い問いを設定できる力や、情報や回答を吟味し、根拠を持って判断してさらに問い直す力が重要です。質の高い問いを設定する力はもちろん、設定した問いを実践・検証・対話や学問との出会いを通して広げ、深め、時には問いそのものを立て直していく力を育てたい。そのためには、生徒一人ひとりの違和感や好奇心を大切にして、多様な人や学問、地域・社会と接続させることがポイントと考え、仕組みをさらに磨いていきます」と渡邉氏。同校の挑戦は続いていく。
文/浅田夕香(2026/9/25)
