生徒の「知りたい」から学術的な探究活動に取り組む/京都市立堀川高等学校

2022年度の現行学習指導要領の実施とともに高等学校で始まった「総合的な探究の時間」。各校はどのようにカリキュラムを作り、生徒を伸ばしているのか。実践事例として京都市立堀川高等学校を紹介する。同校の探究カリキュラムの開発責任者を務める飯島弘一郎氏に取り組みの詳細を伺った。
- 京都府京都市にある1908年創立の市立高校。全日制普通科(定員:1学年80名)、探究学科群(同160名、2年次より人間探究科、自然探究科)からなる。2027年度より学科を探究学科群に一本化予定(定員:1学年240名)。
- 1999年度より探究学習に取り組み、2002年度からはスーパーサイエンスハイスクールの指定も受け、探究カリキュラムの開発・改善に取り組んでいる。
- 生徒の興味・関心を掘り下げ、「知りたい」をもとにテーマを設定し、ゼミ活動を通じて学術的な探究手法を学んだうえで探究活動に取り組むカリキュラムを組んでいる。

25年以上にわたり探究学習を実施
京都市立堀川高等学校(京都府京都市)が探究学習を始めたのは1999年度、まだ高校に「総合的な学習の時間(現・総合的な探究の時間)」が導入されていない時期からだった。
当時、進学実績の面で私立高校優位であった京都市において、公立高校でも塾なしで難関大学に進学できる学校となること、さらに、大学で豊かに学ぶための力をつけ、社会に幸福をもたらす人材を育成することを目指して設置されたのが人間探究科と自然探究科の2学科であり(以下「探究科」)、全校に導入された学校設定科目「探究基礎」だった。進路実現と探究の「二兎を追う」カリキュラムの下、1期生の卒業時には前年度数名だった国公立大学現役合格者が100名以上に増えたことは「堀川の奇跡」として注目された。
そこから20年以上にわたり、生徒の状況や課題に応じて探究カリキュラムの改善を重ねてきた同校。2022年度の現行学習指導要領の開始に合わせて改訂を行った現在のカリキュラムは、下図の通りである。
図 総合的な探究の時間「探究基礎」の概要
1年次から2年前期までを半年ごとに「HOP」「STEP」「JUMP」の3段階に分け、探究活動の準備段階(HOP)、個人の探究課題を設定し、ゼミに所属しながら当該分野の探究手法を学ぶ段階(STEP)、設定した課題を探究し、その成果をポスターと論文にまとめ、発表する段階(JUMP)とする大枠はそのままに、大きく2点を変更した。
1つは、1年前期「HOP」の内容変更、もう1つは、2年後期の「Academic Project」、3年次の「Academic Project Advanced」の新設だ。
1年前期の半年間で興味・関心を掘り下げ「知りたい」を明らかにする
まず、「HOP」の内容は、これまでの情報の収集・整理の仕方やレポート・論文の書き方等「探究の型を学ぶ」内容から、生徒一人ひとりの興味・関心を掘り下げて「探究の種を見つける」内容に変更。探究の型は新たに設けた学校設定科目「理数探究基礎」(1年次、1単位)で学ぶこととした。背景には、探究したいものがない生徒の増加という、近年、同校が抱えていた課題があった。飯島氏は次のように説明する。
「本校は、探究科設置時より『すべては君の“知りたい”から始まる』を探究学習のモットーとし、HOPでも、生徒達には入学時点で『知りたい』があり、型を学べばあとは探究し表現できるだろうという生徒観の下、型を教えてきました。しかし近年は、探究を打ち出している学校であること以上に進学実績を理由に入学してくる生徒が増加し、1年後期に探究テーマを決める際に『知りたい』が出てこないケースが増えていたのです。また、型を学ぶという性格上、生徒の『知りたい』を喚起したり、『知りたい』に応えたりする内容ではないため、生徒からの授業評価も低下傾向にありました」
新しいHOPでは、各自が抱いている興味や素朴な疑問を洗い出したのち、半年間で2〜3つのワークショップに取り組み、都度、抱いていた問いの深まりや変容を振り返ることで一人ひとりの興味・関心を掘り下げていく。例えば、ワークショップの一つとして取り組んでいるのが、同校の図書館の蔵書の1ページ分のコピーから該当する書籍を見つけ出す「図書館ワークショップ」だ。ある年には、元素の同位体の検出方法と文化財について記述されているページが題材とされた。埋蔵文化財の年代の特定技術を紹介する考古学の書籍の1ページだ。
「ほかのワークショップも含めて、知的な営みは文理で分かれるものではないことや、学問領域はそれぞれで閉じているのではなく多様につながっていること、様々な学問が様々な探究テーマに影響を与えていること等を実感してもらうことを狙いとしています。そして、ワークショップを経ての自身の問いの変容を振り返ることで、『知りたい』がある程度明確になり、それを専門的に探究していくために1年後期のゼミを選ぶという流れを作っています」と飯島氏は説明する。
新しいHOPを始めて2026年度で4年目を迎えたが、「1年後期のSTEPが始まる時点で『知りたい』が分からないという生徒の数はぐんと減り、ある程度改革が成功していると捉えています」と飯島氏は評価する。さらに、早期にテーマを設定できるようになったことで1年後期と2年前期の1年間をフルに使って探究活動に取り組めるようになり、個々の探究内容の質の高まりも見られているという。
図書館ワークショップの様子。班ごとに該当する書籍を相談し、書棚に見つけに行く。
図書の分類等を学ぶ機会にもなっている。
探究サイクルを再度回し、教科学習と両立する2年後期の「Academic Project」
もう一つの変更点である、2年後期「Academic Project」(必修)、3年次「Academic Project Advanced」(自由履修)の新設は、従来は2年前期で探究学習を終え、2年後期からは受験勉強にシフトしていた状況を変え、2年後期以降も無理のない形で探究活動を継続するというものだ。その狙いを飯島氏は「探究と教科学習は重なる部分も大きく、探究を頑張ることは教科学習にもプラスになることを伝えるため」と説明する。
全員必修の2年後期「Academic Project」は、3つのコースに分かれる。2年前期までの個人探究を継続する「個人探究」、新たにグループを組んで探究を行う「グループ探究」、1年生のゼミ活動に加わり、後輩を支援する「ファシリテート探究」だ。
グループ探究はさらに、コンテストへの挑戦を目指す「コンテスト系」と、教員が提示するアカデミックな課題にグループで取り組む「学問探究系(2026年度より「テーマ学習」と名称変更)」に分かれる。コンテスト系では「マイナビキャリア甲子園」「中高生探究コンテスト」等に挑戦し、学問探究系(テーマ学習)では「京都府立植物園に出かけて樹木観察をする」「『本を読む本』(M.J.アドラー、C.V.ドーレン著、講談社学術文庫)を読み、書かれている読み方で学術書を読む」等、5教科の担当教員を中心に12の講座が開かれているとのことだ。
取り組みの成果等はまだ検証中とのことだが、飯島氏は「探究と教科学習は本質的にあまり変わらないことに気づき、納得感を持って両方に取り組んでいる生徒が増えてきたという指導実感があります」と話す。また、特にAcademic Projectにおいては、グループで探究し合って高みを目指すことが風土として根付いてきている手応えを得ているそうだ。
さらに、同校の探究学習に長年携わるなかで、探究学習に真面目に向き合った生徒は3年次に様々な知識がつながってくることも実感しているという。「例えば、『国語のこの評論の内容は、化学基礎にも出てきた』等、教員が促さなくても気づく生徒が出てくるんです。このように、各教科の学びは別個のものではなく、全てつながっていることに気づくことができるのは、探究学習の成果の一つだと感じています」(飯島氏)
全ての教科の学びが探究的に行われる未来へ
2027年度からは、学科構成を探究科に一本化することが決まっている同校。「引き続き探究の学校でありたいですし、3年間、探究にしっかりと取り組んだ生徒が人生を生き生きと生きていけるはずだという、本校がずっと仮説として持っているものを大事にしていきたい」と飯島氏は話す。
そして、「個人の考えとして」と前置きしつつ、探究の先を次のように見据えている。
「探究を始めた学校として、今後、どうすれば『探究』と言わなくて済むようになるかを考えるのが私達の遠いイメージだと思っています。現実的な方向性として考えているのは、探究が全ての教科に溶け込んでいくこと、即ち、基礎的な知識・技能の定着を行いながら、全ての教科の学びが探究的に行われる状態になることです。その遠い未来に向かって今後、探究基礎をどのようにデザインしていくかが課題だと思っています」
その一歩目の挑戦が、Academic Projectの学問探究系(テーマ学習)だという。「学問探究系(テーマ学習)は、教員が、通常授業になかなか取り入れられないような探究的・学術的な取り組みを探究する機会にもなっています。そこで効果的だったものを教材としてブラッシュアップし、教科の授業に取り入れれば、その授業は探究的になるはず。Academic Projectが一つのきっかけとなり、教科の授業が探究的なものに変わっていくことを目指しています」と飯島氏。同校の今後の変化に目が離せない。
文/浅田夕香(2026/10/23)
